【深掘り】下地島空港周辺の耕作地、明け渡しに農家困惑…50年前の確認書とは


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「生活も守って」と訴え、下地島での耕作継続を希望する農家有志代表の喜友名弘一さん=7月26日午後、宮古島市伊良部

 【宮古島】宮古島市伊良部で県が進める下地島空港周辺用地利活用第3期事業を巡り、地元の一部農家から反発の声が上がっている。県は50年前の琉球政府と地元地主会との確認書に基づき、県有地で耕作する農家に2024年3月末までに耕作地の明け渡しを求めている。だが農家らは「生活が立ちゆかなくなる」として事業計画の見直しを訴えている。
 

確認書

 下地島空港周辺の土地は空港(下地島訓練飛行場)建設に伴い、1971年に当時の琉球政府が下地島地主会から買い取った。その際に確認書を交わした。建設に使用しない土地は政府(県)が使用するまで無償で耕作を認めることと、耕作中および明け渡しにおける各補償は行わないなどと定めている。

 県は17年12月と21年11月に耕作者らを対象に説明会を開催し、24年度末までに耕作地の明け渡しを求めた。これに耕作継続を求める農家が反発し、今年6月に県土建部に要望書を、県議会に陳情書を提出した。

 下地島での耕作継続を希望する農家有志代表の喜友名弘一さん(78)は「ここで50年、畑をして子どもも育ててきた。出て行けと言われて途方にくれている」と訴え、救済を求めている。

 県は3千メートル級の滑走路を有しながらも遊休化していた下地島空港を利活用をしようと14年度から事業の民間公募を始めた。第1期(14~16年度)では、下地島空港ターミナル改築などを提案した2事業者の提案が選ばれた。第2期(17~20年度)は宇宙港事業を提案した1事業者を選定した。第3期は21年度に公募を開始し、大手通信会社ソフトバンクの通信事業や既存のゴルフ場拡張計画などが選ばれている。
 

ゾーン分け

 県は下地島空港周辺の968ヘクタールの土地を農業(85ヘクタール)、観光リゾート・コミュニティ(279ヘクタール)、空港および航空(395ヘクタール)、緑化(138ヘクタール)、自然環境保全(71ヘクタール)の五つに区切り、それぞれの利用目的に沿った開発事業を推進している。

 農家有志によると、耕作地となっているのは農業と観光の2区域。農業ゾーンは市有地で市が農家約40軒と賃貸契約を結んでおり、今後も耕作が継続できる見通しが立っている。

 県有地の観光ゾーンでは100軒以上の農家がサトウキビやカボチャを育てており、うち64人が耕作継続を希望している。

 県は観光ゾーンでホテル建設やゴルフ場建設を計画し、民間1事業者が利用候補に挙がっている。農業利用は見込んでいない。観光ゾーンに畑を持つ喜友名さんは「50年間耕作を認めてくれたことは感謝している。事業計画そのものに反対しているわけでもない。ただ観光利用区域があまりに広い。農業区域を設けて共存共栄を検討してほしい」と求めた。

 県が2020年12月から21年3月に実施した調査よると、現在、県有地・市有地合わせ下地島空港周辺192ヘクタールの土地で農家156人が耕作している。喜友名さんは「県の調査から漏れている人もいる」と指摘する。「知事が掲げる誰一人取り残さない社会実現のためにも、希望者には賃貸契約を交わして畑を続けられるようにしてほしい。農家の生活を守ってほしい」と訴えた。一方、県空港課は「再度、説明会を開催して、事業の必要性を丁寧に説明し、理解を得たい」として現行計画を進める姿勢を示した。

 (佐野真慈、梅田正覚)