上江洲由孝、最後の舞台 60年の芸道輝く 「由絃會」初代会主


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 「由絃會」を興した上江洲由孝の芸道60周年記念公演「謡・踊い・遊び」が6日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホールで開催された。周年記念と共に千秋楽公演と銘打たれた、由孝にとって最後の舞台。由絃會の会員と賛助出演の玉城宇根本流敏風会、琉球箏曲興陽会の会員ら総勢約200人が、13演目を通じてもり立てた。

「命一つ節」を歌う上江洲由孝(中央)と上江洲静香(左)、山川まゆみ=6日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール

 幕開けの斉唱は、歌三線に向き合う心構えを歌った「飛翔由絃(由絃の謡)」(由孝作詞、普久原恒勇作曲)と「かぎやで風」を由孝と約150人の由絃會の会員が歌った。師の引退の花道を飾ろうという、弟子たちの気持ちが伝わる歌声と表情が、涙を誘った。

 由孝は、本公演日をもって二代目会主となった娘の上江洲静香と、「娘以上に長い付き合い」(由孝)という愛弟子・山川まゆみとコンビ唄を歌った。叙情的な民謡「命一つ(ヌチティーチ)節」と「具志川小唄」、「山原汀間当」を選曲した。貧苦の中でも、懸命に生きてきた日々を語って聞かせる「命一つ節」では、由孝の優しい歌声が観客の心を打った。

 静香は「未熟だが、会の発展のために(活動を)盛り上げていきたい」と会主就任の決意を語った。

由孝(右)のひょうひょうとした芝居が観客を笑わせた舞踊歌劇「想い」

 舞踊歌劇「想い」は、主の前役で由孝が出演した。金持ちの主の前が、既に恋人がいるジュリ(上原ゆい)に入れ込む。しかし、不義な心根がばれて、ジュリアンマー(安次嶺利美)に愛想を尽かされ、妻(安次嶺正美)にも離縁される。好々爺(こうこうや)の風貌で、由孝が話すたびに、会場は笑いに包まれた。

 30、40代の門下生が男女に分かれて地謡を務めた「加那ヨー天川」、ゆいゆいシスターズによる「ユイユイ」、同グループ初代リーダーの源古尚子による「帰らぬ我が子」など、会員による歌三線が舞台を彩った。玉城宇根本流敏風会は「加那ヨー天川」や、宮里敏子家元と渡嘉敷栄子らによる舞踊「仲里節」など、6題を踊った。舞台監督を、由孝と同じ久米島出身の中村一雄が務めた。

 千秋楽の舞台上で由孝の脳裏には、那覇劇場で沖縄芝居を常打ちしていた大宜見小太郎のもとへ、師の登川誠仁に連れて行かれた日のことが浮かんだという。由孝最後の出番の「想い」の主の前は、大宜見が得意な役の一つだった。「大宜見先生は当時、雲の上の人。登川先生に『この青年を芝居の地謡見習いに使ってくれ』と紹介してもらい、地謡を勉強させてもらった」と両師への感謝を語る。

 由孝は「昭和のしまうた、しまくとぅばの指導に力を入れ、陰から若い人たちが活躍できる舞台をつくっていきたい」と、後進の育成に尽くす決意を語り、満足げに目尻を下げた。

 由孝の歌三線と沖縄芝居を愛する思いと、それらを楽しみに劇場へ足を運ぶ観客へ、より良いものを届けられるよう精進を重ねてきた芸道が、凝縮された舞台だった。
 (藤村謙吾)