安心して医療を受けられるように 沖縄県立北部病院、地域完結の産婦人科へ拡充続く グループ診療を導入、口腔ケアも強化


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「地域に信頼される産婦人科にしていきたい」と語った県立北部病院産婦人科の諸井明仁医師(右)と久貝忠男院長=名護市の同病院

 人口約10万人、年間約千人が出生する北部地域の医療の根幹となる県立北部病院(久貝忠男院長)。同院の産婦人科が、地域の女性たちが安心して医療を受けられるようにと変化を続けている。

 同院産婦人科は医師の不足により2005年頃から休診や診療の縮小を繰り返し、夜間や休日などの緊急手術には対応できないことも多かった。久貝院長は「北部病院では治療が受けられず、域外に出ざるをえなかった方たちは確かにいる。産婦人科では常に常勤医が求められてきた」とこれまでの状況を振り返る。

 そうした同院の体制が変化したのは19年5月。県の人事異動により、ほかの県立病院から経験豊富な指導医3人が産婦人科専門の常勤医として着任。24時間体制のグループ制診療で安定的な医療が提供できるようになった。

 そのうちの一人で、中部病院から赴任した諸井明仁医師は「中部病院で日常的に行われていた産婦人科の腹腔鏡下手術の設備が北部病院には不十分だったことや、一般的に使われる月経困難症などの治療を目的としたピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)の種類が十分にはそろっていないことに課題を感じた」と、赴任当時を振り返った。「中部病院の医療体制に倣い、まずは環境を整えることを目指した」と語る。

 19年以降、同院の分娩(ぶんべん)や手術の件数は増加した。18年の分娩件数が142件だったのに対し、19年は214件、20年は223件、21年は269件に増えた。また手術数は18年が116件、19年は212件、20年は234件、21年は231件と対応できるようになった。

 他科と連携した新たな取り組みも始めている。そのうちの一つが、20年5月から始まった歯科口腔(こうこう)外科との連携だ。抵抗力が落ちた妊婦がなりやすい歯周病は、早産や低出生体重児、妊娠高血圧症候群などを引き起こすことが広く知られている。妊婦の口腔ケアが不十分な場合、将来的には子どもの虫歯につながる可能性もある。

 そのため妊娠時からリスクを低減しようと、妊婦が同院の歯科口腔外科を受診し必要な治療を1カ所で受けられる体制を作った。地域の歯科医院との連携により北部医療圏全体で妊婦の口腔ケアを行う体制へと広がりを見せた。

 さらに21年8月には子宮頸がんワクチン外来を開設し、北部地域の市町村役場への訪問や市民公開講座を行うなどして接種や啓蒙に力を入れる。また子宮が腟の外に飛び出す「子宮脱(骨盤臓器脱)」に対する腟式子宮全摘術も積極的に実施している。

 久貝院長は「今でも産婦人科医師の定員は充足してはいないが、現行の3人が、1人で2~3人分の働き方をしてくれて、いい体制を築いてくれている。北部地域の方が住んでいる場所で治療が完結できるのが理想だ」と話した。

 諸井医師は「第一に地域の方たちに信頼されて地域完結できるようにし、中南部の病院からも安心して患者さんを紹介してもらえるような産婦人科にしていきたい」と目標を語った。
 (嶋岡すみれ)