ウクライナ戦争とロ朝関係 朝鮮半島の緊張高まり危惧<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ウクライナ戦争が北東アジア情勢にも影響を与えている。特に変化しているのがロシアと北朝鮮の関係だ。日本の終戦記念日に当たる8月15日は、北朝鮮では祖国解放記念日として祝われている。15日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記とロシアのプーチン大統領が祝電を交換した。

 金正恩氏からプーチン氏に宛てた祝電には<朝鮮の解放のための戦いで勇敢な赤軍将兵は自分の血と生命を惜しみなくささげる崇高な国際主義の亀鑑を示したし、彼らの立てた功績と偉勲(いくん)は永遠の記念碑としてそびえ立ってわが人民の記憶の中に大切に刻み付けられていると指摘した。そして、共通の敵に反対する抗日大戦の日々に結ばれた朝露友好は世代と世紀をまたいで変わることなく強化され、発展してきたし、こんにち、敵対勢力の軍事的威嚇と挑発、強権と専横を粉砕するための共同の戦線で両国の戦略・戦術的協同と支持・連帯は新たな高い段階に上がっている>(15日「朝鮮中央通信」)と記されていた。

 この内容自体は北朝鮮が常に述べていることの繰り返しで新味がない。

 他方、プーチン氏から金正恩氏に宛てた祝電では、例年と異なりロシアが北朝鮮に接近する姿勢を示している。

 <われわれ両国では、朝鮮の解放のために肩を組んで共に戦った赤軍軍人と朝鮮の愛国者に対する追憶を心に大切に刻み付けている。峻厳(しゅんげん)であった日々にもたらされた友好と協力の栄えある伝統は、今日もロシア連邦と朝鮮民主主義人民共和国の善隣関係を発展させるための強固な基礎となっている。私は、われわれが共同の努力によって総合的かつ建設的な双務関係を引き続き拡大していくものと確信する。これは、わが両国人民の利益に全的に合致し、朝鮮半島と北東アジア地域全般の安全と安定を強化するのに資することになるであろう>(8月15日、朝鮮中央通信)。

 日本を名指しすることは避けているが、<朝鮮の解放のために肩を組んで共に戦った赤軍軍人と朝鮮の愛国者に対する追憶>という文言で、対日戦争という共通の記憶がロシアと北朝鮮の友好協力関係の基礎であるという歴史認識が示されている。

 さらに<われわれが共同の努力によって総合的かつ建設的な双務関係を引き続き拡大していくものと確信する>という表現で、ロシアが北朝鮮に協力していく姿勢を示している。これまでロシアは北朝鮮による核開発と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を日本や米国と連携して阻止していくというのが基本方針だった。

 しかし、ウクライナ戦争によってロシアは日本や米国を非友好国と認定した。他方、北朝鮮はロシアにとって友好国ということになった。その結果、ロシアは北朝鮮の核実験やミサイル発射実験に対する姿勢も変化する。既に北朝鮮のミサイル発射についてロシアは異議を唱えなくなっている。核実験に対しても、核拡散は好ましくないという形式的な声明は出すであろうが、北朝鮮に対する制裁にロシアは加わらない。国連安全保障理事会で北朝鮮に対する非難決議案や制裁決議案が上程されてもロシアは拒否権を行使するであろう。

 北朝鮮がいつ核実験を再開してもおかしくないと筆者はみている。米国がロシアだけでなく中国と対立している状況で、中ロ両国が北朝鮮の核実験阻止に向けて働きかける可能性が低くなっている。朝鮮半島情勢の緊張を口実にして、沖縄の国防機能を強化せよという声が東京の政治エリート(政治家、官僚)の中で今後急速に強まることを筆者は危惧している。

(作家、元外務省主任分析官)