南西諸島の防衛、実戦を想定 沖縄の負担増も 防衛省の23年度概算要求、6兆円台を視野


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沖縄・宮古島にある陸上自衛隊保良訓練場の弾薬庫=城辺保良、2011年11月14日撮影

 22日判明した防衛省の2023年度予算概算要求は、計上額が過去最大に達した。沖縄県など南西諸島防衛の実戦を想定。これまで優先してこなかった弾薬の製造・保管・輸送をてこ入れし、戦闘継続能力(継戦能力)向上を図る。野党は、防衛費6兆円台を視野に入れた政府の姿勢を「金額ありき」と問題視する。

 台湾包囲の衝撃

 10日。岸田文雄首相は内閣改造後の記者会見で「数十年に1度とも言われる難局を突破する」と狙いを説明。新型コロナ対応、ウクライナ危機に続けて「台湾を巡る米中関係の緊張」を難局に位置付けた。

 念頭にあったのはその前週、台湾を包囲する区域で中国軍が開始した軍事演習だ。ペロシ米下院議長の訪台を機に、多数の艦船や航空機を投入。弾道ミサイル5発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた。台湾は与那国島から約110キロしか離れていない。自衛隊関係者は「中国はいつでも台湾周辺を封鎖できると誇示した。軍事衝突が起きれば、日本の南西諸島も甚大な影響を受ける」と衝撃を隠せない。

 首相は会見で、改造内閣の5重点分野の筆頭に「防衛力の抜本強化」を挙げた。浜田靖一防衛相は10日の就任会見で「南西諸島における防衛体制を目に見える形で強化していく」と強調した。

 長年の課題

 こうした危機感は、継戦能力強化として概算要求に織り込む。従来の防衛予算は人件費や戦闘機など装備品のローン払いが中心で、ミサイルを含む弾薬関係費は「事実上の後回し」(防衛省幹部)にされてきた。

 いくら最新装備をそろえても、弾薬確保が不十分なら実戦を何日耐えられるのか―。自衛隊の長年の課題をより鮮明にしたのが、ロシアによるウクライナ侵攻だった。ウクライナは抵抗するための武器・弾薬が足りず、諸外国に支援を要請した。防衛関係者の間では、自前の装備品調達が必要との認識が高まった。

 政府は22年度予算で、弾薬確保のために約1660億円を計上。23年度予算の概算要求では、ミサイルの製造ライン強化を明記し、金額を示さない「事項要求」とした。防衛費概算要求の計上額は5兆5947億円となるが、事項要求分を含めた防衛費は最終的に6兆円台半ばに積み上がると予想される。

 攻撃の標的

 弾薬確保を増強した場合、保管場所の設置も必要になる。台湾危機に対応するなら沖縄が想定されるが、既に在日米軍基地の負担も重く、反発は必至だ。「攻撃の標的になる」との懸念もある。住民理解の獲得は難航が予想される。

 岸田政権が、経済財政運営の基本指針「骨太方針」を踏まえ「5年以内」の国内総生産(GDP)比2%を念頭に置いた防衛費増額へ動き出すのに対し、野党は警戒感をあらわにする。立憲民主党の泉健太代表は「2%ありきでなく必要な防衛力整備を」と数値目標の既成事実化をけん制。共産党の志位和夫委員長は「大軍拡が暮らしを押しつぶす」と指弾する。
(共同通信)