◆心臓TAVI治療 琉大病院、重症者に成果


この記事を書いた人 外間 聡子
TAVIで使われるカテーテル(手前)と置換される人工弁(左)

 カテーテルを使って心臓に人工弁を運び、治療する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が、開胸手術が難しいとされた重症の大動脈弁狭窄(きょうさく)症患者の治療に成果を上げている。琉球大学付属病院ではこの治療を始めた8月以降、80~90代の4人が元気を取り戻して退院した。

 関係者が8日、同大で会見を開き、今月TAVIを受けたばかりの大城朝行さん(89)=うるま市=が「息苦しかったのがすっかり元気になった」と生き生きとした表情を見せた。同大大学院医学研究科の国吉幸男教授は「今まで治療ができないと言われていた人たちも受けられる可能性がある」と受診を勧めた。

 加齢などのため血管内部が固くなる動脈硬化や、血液の逆流を防ぐ心臓の弁が固く、開きにくくなる大動脈弁狭窄症によって、血を送り出す心臓に大きな負担がかかる。動悸(どうき)や息切れ、突然死の原因にもなる。治療をしなければ症状が出始めてから2年以内に約半数が死亡するといわれる。80歳以上では重症者の有病率は4.8%で、県内人口で計算すると373人。高齢化で患者はますます増えるとみられる。

 重症者の治療は外科的治療で弁を取り換えるが、胸を切開し、一時的に心臓の動きを止めて人工心肺をつなぐ必要があり、患者の負担は大きい。重症者が増える高齢者になればなるほど、体力低下や合併症のため開胸手術ができないケースも増える。

 TAVIでは、太ももの付け根や胸からカテーテルを挿入し、血管を通って心臓に弁を届ける。切開や人工心肺の負担がなく、開胸手術で1~2カ月かかる入院は10日ほどで済み、開胸手術ができない人でも実施できるのが最大の利点だ。全国で約60施設が認定を受けて実施しており、術後30日の生存率は98.8%と高い数値を誇る。

 大城さんは3年ほど前に胸の痛みを感じて他の病院を受診。開胸手術を受ける予定で進めた検査の最終盤で、血管の石灰化が進んでいることが分かり、手術は困難と判断された。

 息切れがし、足を引きずるように歩いていたという父の姿に「呼吸困難があるので飛行機で県外へ治療に行くこともできない。どうしようかと心配だった」と娘の加津美さん(54)。琉大付属病院でTAVIを受けられると知った大城さんが自ら希望し、受診した。

 担当したのは約30人の「ハートチーム」だ。医師や看護師のほか放射線技師やコーディネーターなど多分野の専門家が連携してチーム医療の経験を重ねている。大城さんは胸からカテーテルを挿入する経心尖アプローチで、約1時間半の手術は無事成功。翌日から食事、2日目には歩行もできるようになった。

 「父は足音も軽くなり、以前とは全然違う。もっと多くの人がこの治療を受けられるといい」と加津美さん。大城さんは以前から通っていた「プールにもまた行きたい。リズム体操もしたい」と笑顔を見せる。

 高齢化で動脈硬化や大動脈弁狭窄症の患者は増えている。特に沖縄は動脈硬化や血管の石灰化が進行した人が多いという。国吉教授は「離島県である沖縄では他府県へ治療に出掛けにくい。県内で先端医療が受けられるのは大きい」と意義を語った。