【識者談話】療育手帳持たず福祉の外に 心のケアも重要 嘱託殺人判決 島村聡・沖縄大教授


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島村 聡氏

 知的障がいと判定されれば「療育手帳」が交付され、行政や民間事業者からさまざまな福祉サービスを受けることができる。今回の被告は療育手帳を所持しておらず、福祉とつながらずに60代まで過ごしている。2006年に障害者自立支援法が施行されて以降は、手帳を取得する人が増えた。法に基づく福祉サービスを受けるには手帳が必要という要因もある。被告はこの流れからも取り残された。

 母子保健法に基づく乳幼児健康診査などが整備され、少子化や発達障がいに対する認識も相まって、最近では障がい児が発見しやすくなった。今の60代は多子世帯が多く、障がいが見過ごされ、手帳を取得しなかった人たちが一定数はいるとされる。

 手帳を取得していないと、支援が必要な人を行政などが把握できない。被告は地域の中で見えない存在になり、SOSが発信しづらい環境に追い込まれてしまったように見える。今回の事件は、閉じられた環境に置かれた兄弟が、絶望に突き当たって起きたように感じる。福祉制度につながるなど第三者が介入していれば、結果は違っていたのではないか。

 弟を手に掛けてしまった被告の喪失感は極めて大きいと考える。今後は同じような心の痛みを持つ人たちと交流を持つなど、心のケアも重要となる。
 (障がい者福祉施策)


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