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ホテルがたくさん建っていればいいの? 「沖縄振興」とは何か…点検した若者の思い<暮らしの現場から>㊦


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「どういう経済をつくりたいのかちゃんと議論してほしい」と話す石垣綾音さん=那覇市

 日本復帰以降50年にわたり、国の制度の下で進められてきた「沖縄振興」。その枠組みからこぼれ落ちたように貧困の問題が浮き彫りになる一方、知事選では、社会課題と振興の在り方をつなげた議論はあまり見られない。社会課題の解決に向け、制度の在り方や県の振興計画を県民目線で議論し、決めていくべきだとして若い世代が動き始めた。

 まちづくりファシリテーターの石垣綾音さん(32)は昨年2月、振興計画を市民目線で考えようと「沖縄未来提案プロジェクト」を発足。石垣さんの呼びかけで20~50代の学生や研究者、NPO法人など社会課題に関わる約120人が県の振興計画案を点検した。SDGsの根幹である「人権」を中心に据え、経済一辺倒にならないような計画の策定を提案した。

 沖縄の経済開発は、沖縄復帰特別措置法(特措法)に基づき、国が振興の基本方針を決め、それに沿って県が振興計画を策定し進められてきた。最優先されるのはインフラ整備や観光振興だ。

 予算が公共事業に偏り、沖縄の所得格差や貧困が固定化する原因になっているという学者らの指摘もある。

 多くの県民が、特措法にひも付く県の振興計画についてあまり知らず、議論に加わらないことに問題意識を抱いたという石垣さん。「数多くのホテルが建っていればそれでいいと思っているのだろうか」と疑問を示す。候補者らの主張は「どういう経済をつくりたいのか見えない」と感じ、公共事業型か循環経済型か、福祉や教育充実型かなど具体的に示してほしいと望む。自身は循環型経済を望み、公共事業で下請けや労働者の適正な賃金水準が守られていない仕組みの改善も求める。

 長年、県の振興審議会の委員を務めてきた琉球大の嘉数啓名誉教授(島しょ経済学)は「県の振興計画策定で最も影響を受ける若者目線で総括、議論する場がほとんどなかった」と振り返る。今後、あらゆる層の住民を巻き込み自治体レベルで策定するなど抜本的な見直しが必要だとも指摘した。
 (中村万里子)


 11日投開票の知事選は米軍基地問題や新型コロナウイルス対応などを争点に、論戦が展開されている。暮らしの現場から県政の課題を見た。