いよいよ明日、県知事選挙の投開票が行われる。沖縄県知事選挙は他の都道府県の選挙と異なる部分がある。それは沖縄県知事が県という地方自治単位の首長であるとともに、県内だけでなく、日本や諸外国に在住する沖縄人(ウチナーンチュ)を統合する象徴の機能を持っているからだ。東京に住む日本系沖縄人という自己意識を持っている筆者にも県知事選挙はわがことのように思える(東京都知事選挙のときは、このような気持ちにはならなかった)。
新聞は公器だ。選挙公示から投票日までは、特定の候補者に対する好感や反発について書くことは差し控えるべきと考える。今回の選挙で重要なのは、辺野古新基地建設問題が正面から争点になっていることだ。容認、反対、軟弱地盤の埋め立て断念など各候補者が具体的方針を示している。知事に誰が当選するかで、辺野古新基地建設についての現時点での民意が判明することになる。
その意味で今回の県知事選は米軍基地過重負担問題を巡る沖縄の未来を決定することになる。辺野古新基地問題に関する筆者の姿勢については、本コラムでも過去に何度も述べているように反対だ。この立場に変化はない。同時にこの問題を決定するのは、生活の基盤を沖縄に持つ有権者であると考える。
沖縄に生活の基盤を持たない沖縄人や日本人が、国家主義イデオロギーから辺野古を含む米軍基地の機能強化を要求することも、反米運動や革命イデオロギーに利用できる駒として辺野古新基地建設反対運動を政治的に利用し、自らと見解の異なる人々を断罪するような日本人とごく一部の沖縄人の姿勢にも筆者は違和感を覚えている。辺野古新基地建設問題は沖縄の自己決定権という枠組みで処理すべきだ。
さらに国への予算計上を内閣府が一本化する「一括計上方式」の在り方をどうするかが争点になっていることも興味深い。「一括計上方式」は植民地型予算の残滓(ざんし)だと筆者は考えている。沖縄人には予算を組み立て、折衝する能力がないので、中央政府が代行するという発想だ。沖縄の自立を考えた場合、「一括計上方式」を卒業する必要があると思う。この点については誰が知事に当選しようとも真剣に考えてほしい。
子どもの貧困問題を解決することも重要だ。子どもの貧困の背後には、大人の貧困の問題が必ずある。ウクライナ戦争による国際秩序の変動は経済にも悪影響を与えている。燃料や食料価格の上昇と円安によってインフレが加速している。インフレは社会的に弱い状況に置かれた人々と地域を直撃する。ウクライナ戦争の長期化が沖縄にも打撃を与えるという状況を認識し、県は貧困問題を解決するために早急に対応をとってほしい。
予算が不足するならば、知事が呼びかけて貧困対策のための基金を作り、寄付を募ってもいいと思う。「祖国」沖縄のために貢献したいと考えている沖縄人は日本にも世界にも少なからずいる。こういう人々の思いを形にできる仕組みを作ることが知事の任務だ。
最後に強調したいのは、組織の意向や人間関係で投票先を決めるのではなく、自らの頭で沖縄の未来を考え、良心に従って投票することだ。遠く離れた東京から熱い思いで知事選挙を見ている。
(作家・元外務省主任分析官)