HIV、根強く残る偏見や差別…医療従事者の対応が重要 「心配なら検査という選択肢は正しい」との声かけも 医療従事者対象にセミナー、現状や課題を共有


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オンラインセミナーでHIV検査を受けた患者への対応などについて語るなしろハルンクリニックの名城文雄医師

 沖縄県内のHIV/エイズをめぐる現状について知り課題解決に向け行動を起こそうと「県HIV/AIDSセミナー2022~沖縄みんなでHIV/AIDSを考える日~」(県、県内科医会、琉球大学病院、県薬剤師会、県病院薬剤師会、ギリアド・サイエンシズ株式会社共催)が、このほど県内の医療従事者を対象にオンラインで開催された。

 琉球大学病院の仲村秀太医師と、なしろハルンクリニック(浦添市)の名城文雄医師が登壇し、HIVをめぐる世界や沖縄の状況について講演した。また岡山県にある川崎医科大学血液内科学の和田秀穂医師が岡山県のHIV診療の取り組みと成果について紹介した。

 仲村医師はHIVの流行を押さえ込むための手だてとして、定期的な検査やコンドームを使用した安全な性交渉、最新の感染予防法、早期治療などが絡み合う「複合的予防戦略」について説明し、イギリスでの取り組みを紹介した。

 その上で「一つ一つのツールが歯車となって新規感染はゼロになる。医療体制や保健政策なども絡むことから、行政が果たす役割も大きい」と指摘。現在県内ではほぼ全ての保健所でHIV検査業務が休止していることから「沖縄の状況を好転させるためには、今より踏み込んだ対策が必要だ」と求めた。

 また「東アジアHIVコミュニティサミットin東京 2022」に向けて20年1月21日から同2月14日に実施した、日本を含めた11カ国の当事者団体へのアンケート結果を紹介。「あなたの地域でHIVに関して何が主要な問題か」との問いに対し「スティグマ(社会的な負の烙印)」が1位となったことから「検査アクセスや治療が良くなっても、スティグマで検査に行けない人もいると思う」と、偏見や差別が根深く残る現状を問題視した。

 そのため現在世界的にキャンペーンが展開されている「U=U」(効果的な治療をしてウイルスを検出限界値まで押さえ込めばパートナーに感染させることはない)について、広く社会に知らせる必要があるとし「『効果的な治療をすればパートナーにうつさない』という事実が、社会全体のHIVに対する認識をいいものに変えるきっかけになる」と話した。

 名城医師は2014年の開業以来、性感染症の検査をしてきた経験を踏まえて、患者との関わり方などについて話した。

 現在県内でHIV検査を受けられるのは那覇市保健所と民間の医療機関7カ所のみ。このうちのひとつのなしろハルンクリニックでは保健所の検査が休止した2020年以降検査件数が増大し、2021年に実施した検査218件のうち陽性が3件出た。

 名城医師は性感染症の患者は羞恥心や罪悪感を抱えながら受診することが多いことから、患者に「心配なら検査を受ける、という選択肢は正しい」と伝え、検査を受けにきたことを全面的に肯定する声を掛けるという。

 また陽性が発覚した場合は医師の気配りや対応が重要だと指摘。「早期に発見できて良かったこと、今の段階であればエイズの発症を抑えることも可能だということを伝えることで、患者の精神的なケアにも配慮する」とし、HIVを早期発見、早期治療するために民間医療機関の果たす役割などについて語った。
 (嶋岡すみれ)