瀬名波さん「技術が社会を優しく」 花城さん「成果を産業に生かす」 <国連総会科学サミット 沖縄発(上)>


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(左から)瀬名波出さん、花城良廣さん

 9月の国連総会に合わせ開かれた第8回科学サミットで20日、沖縄発のセッションがオンラインで開かれた。「可能性を秘めた小さな島~パートナーシップを通じた沖縄のより良い未来の創造」をテーマに、琉球大の西田睦学長、同大工学部の瀬名波出教授、OIST客員研究員のオリガ・エリセーバさん、沖縄美ら島財団の花城良廣理事長が登壇、琉球新報の島洋子編集局長が司会を務めた。国内外から80人以上が視聴した。当日の内容を詳しく報告する。連載初回は瀬名波さんと花城さんの基調報告を伝える。

技術が社会を優しく 瀬名波出さん(琉球大工学部教授 リテックフロー代表)

 熱や物質の流れに関する研究をしている。起業したリテックフローで、排ガス中の二酸化炭素を水に溶かしてほぼ100%回収する装置を開発した。これを固定化するために海の植物である海藻の養殖を始めた。

 高濃度のCO2で海ぶどうは成長が通常の1.5倍になり状態も良く、売り物になるものが2倍近くになった。地元のIT会社と連携してコンテナ内で温度を管理し、雑菌も入らず通年で安定的に栽培する。今後はセンサーやAI(人工知能)を活用して栽培を最適化したい。栽培した海藻にマイクロプラスチックを付着させて回収しバイオ燃料にする研究も進めている。

 また養殖技術を障がい者雇用に生かし、ビジネス化を進めている。藻類ビジネスや、海でCO2を吸収するブルーカーボンは巨額の市場が見込まれる。県内で新しい産業を興せば、車いすの人、体が弱い人も働ける職場を創出できる。

 目指すのは「技術が社会を優しくする」ことだ。研究の社会実装もあるが大学教員の一番の役割は学生を育てること。かつての教え子が社会で活躍し自分も助けられている。予算を惜しまず人を育て、世代をつなぐのが大切だ。

成果を産業に生かす 花城良廣さん(沖縄美ら島財団理事長)

 沖縄美ら島財団は理念「美らなる島の輝きを御万人(うまんちゅ)へ」を実現するため(1)環境問題への対応(2)産業振興への寄与(3)文化財の保全継承(4)公園機能の向上―の4本柱を立て、効果的に進めるために大学や自治体と協力体制を取っている。

 環境問題ではザトウクジラやウミガメの生態調査を長年継続する。ウミガメは長期飼育で性成熟に20年以上かかることが分かった。外来種テラピア駆除のための不妊化技術開発、サンゴ礁モニタリング、野生動物のための病院も設置した。植物は琉球列島の絶滅危惧種の調査を継続し、種子や植物体の保存も行う。

 これらの成果は産業に生かせる。クジラ調査はホエールウオッチングに、水族館で繁殖した魚類の卵からは養殖の研究もする。在来植物を品種改良して園芸種の開発、各地にある島野菜の収集や保存、栽培、地域でのブランド化も行う。

 琉球文化の保全へ資料の収集、復元、人材育成も行う。王国時代から伝わる琉球料理は薩摩侵攻や沖縄戦で資料が失われ、島野菜などの素材も消えつつある。古文書の読み解きから資料を集めて復元し、琉球料理を世界遺産に登録したい。