女性の政治進出を阻む壁とは?労働環境の問題は? 復帰からの歩みを振り返り議論 オンライン公開講座第2回


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登壇した(右から)謝花直美さん、比嘉京子さん、髙良沙哉さん=9月24日

 大学コンソーシアム沖縄の県民向け公開講座「女たちの『復帰』50年」の第2回目が9月24日、オンラインで開催された。「沖縄政治・社会と女性たち」と題して、県議会議員の比嘉京子さんと沖縄タイムス記者で沖縄大地域研究所特別研究員の謝花直美さんが登壇した。同大の高良沙哉教授(ジェンダー憲法学)が司会を務め、女性の政治進出を阻む壁や、女性を取り巻く労働環境の問題などについて、1972年の日本復帰からの歩みを振り返りながら意見を交わした。内容を詳報する。 (嶋岡すみれ)


クオータ制の導入を 比嘉京子さん 県議会議員

 県議会議員の比嘉京子さんは、政治的決定の場になぜ女性が少ないのか、歴史的な背景や他国との比較を交えながら講演した。女性の政治進出を阻んできた三つの壁として(1)社会的な壁(2)選挙制度の壁(3)議会制度の壁―を上げた。

 中でも議会制度については議員になると泊まりがけの視察や深夜までの議会、妊娠出産などの休暇の取り方が自己判断に任されていることなど、さまざまな問題があるとし「オンラインによる採決など、議会の在り方や考え方を変えなければならない」と指摘した。

 9月に行われた統一地方選では、北谷町の女性立候補者7人が全員当選し、女性の割合が36.8%に上り県内議会でトップとなった。町が過去2回開いた「女性議会」の参加者から、複数人の当選者が出たことなどに触れ「議会を身近なものと感じるような取り組みがこの状況を生み出したのではないか」と評価した。

 国は2018年に国会や地方議会で候補者の男女数をできる限り均等にすることを求める「候補者男女均等法」を制定した。だが罰則のない努力目標の法律で、議席や候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」の導入も世界と比較して遅れている。

 県内では復帰50年がたっても、いまだに女性議員が1人も誕生していない自治体がある。比嘉さんは「政治の場で(社会構成に比較して代表者が少ない)『過少代表』としての女性の声がもっと反映できれば、誰もが生きやすい社会になるのではないか」と話し、クオータ制の導入を訴えた。また多額の資金や組織の支援を必要とするような従来の選挙の方法にとらわれない新たな手法やライフステージに応じた議会運営を検討すること、県内女性議員のネットワークを作る重要性について指摘した。


メディアの役割重要 謝花直美さん 沖縄タイムス記者

 沖縄タイムス記者で沖縄大地域研究所特別研究員の謝花直美さんは「〈下から〉見る女性の社会参加 『復帰』50年の現在地」と題し、記者の経験を交えながら、政治と労働の場で女性がどのように声を上げてきたのか振り返り、現在女性たちが置かれている状況について語った。

 謝花さんによると沖縄の女性は日本本土よりも早い1945年9月に初めて参政権を得た。当時の沖縄は戦争によって男性がおらず、選挙をしようにもできなかったことから女性を入れないと成り立たないという時代背景があった。1948年、戦後初めて実施された市町村議会議員選挙では女性議員13人が誕生したものの、その後は1桁台に激減したまま推移し、90年の「マドンナブーム」を機に27人に増え、徐々に女性議員は増えつつある。

 謝花さんは一連の流れについて、女性議員が低調になっていた時期も、復帰前の女性たちは沖縄婦人団体連絡協議会(婦団協)などさまざまな団体を通じて社会問題に取り組み、政治に働きかけていたことから「復帰して日本化していく中で、どこで女性たちが意見を通していくのかという変化が実はあるのではないか」と分析した。

 また労働の場では男女の地位の平等感が3割程度にとどまっていることなどを紹介し、雇用体系が複雑化する中で「パートや契約で働いている女性たちが声を上げづらくなっている」と指摘。

 解決するためには企業自身が女性を登用することはもちろん、メディアがそうした女性たちを取り上げ、つながりをつくることが重要だとし「それをやらないと苦しい声を逃してしまう」とメディアが果たすべき役割について説明した。


質疑応答

 

 講演後、質疑応答の時間が設けられた。一部を紹介する。

 「女性議員を増やすためにはどうしたらいいか」との質問に対し、比嘉さんは「沖縄では選挙準備や政治参画の方法を教えてくれるセミナーがない」とし「問題意識を持ち、どう解決していくのがいいのか考えた時は、今、議員や政治活動をしている人に声をかけるのが一番かなと思う」と答えた。

 またドラスチックに変えるにはクオータ制の導入が必要とし「尻込みしているのは既得権益の男性。国全体の盛り上がりを考える必要がある」と指摘した。

 「女性議員が議員を辞めた後、地域でどのように活躍してきたか」との質問に対して、県内各地の女性1号議員を取材して連載「さきがけの女(ひと)」にまとめた謝花さんは「地域に戻ったときに男性のネットワークの中でやりづらいのかなと感じた」と話し、数としての女性議員のネットワークが少なく、地域社会に残っている強固な男性のシステムがその後の活躍を阻んでいた様子を語った。

 一方でかつての女性議員は地域の突破口や風穴を開けるような存在だったとし「今の若い人は(かつての女性議員が)ちょっと歩きやすくした道をさらに広げていく。これから変わっていくのではないか」と期待感を示した。また女性議員の連携について「メディアがあるべき姿を見い出して女性議員を押し上げていくということをもっとやったほうがいい」と話した。


 当日の様子は動画投稿サイト「ユーチューブ」で27日まで視聴できる。動画は沖縄大HPから。