「産後パパ育休」、世界トップクラスの制度と言われるけど…何から始めればいいの?<沖縄お仕事相談デスク>


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今回のお悩み

建設業・人事担当者・Sさん

2022年10月1日より「育児・介護休業法」の改正により、「産後パパ育休」が新設されました。

弊社でも「産後パパ育休」を推進したいのですが、管理職から人手不足を指摘され難色を示しています。

どうすれば良いでしょうか。

今回の回答者は…

女性のキャリアのことならお任せ

(株)ワダチラボ代表取締役でキャリアコンサルタントの

福島知加さんです。

本日は企業の人事担当者からのご相談です。

Sさんの仰る通り、今年は「育児介護休業法」の大幅な改正があり

その目玉となるのが、世界トップクラスの育休制度と称される「産後パパ育休」です。

できるかぎり推進したいけど…と思っている方も多いのでは。そこで、多くの企業さんがぶつかるであろう「壁」とその「解決策」を紹介していきたいと思います。

■「産後パパ育休」とは? なぜ国が推進?

今回の法改正により、男性も子どもが産まれて8週間以内に合計4週間(2回まで分割可)の育休が取得でき、現行の育休制度との併用も可能となります。

また2022年4月1日より「申し出労働者に対する個別の周知・意向確認の措置」と「育児休業が取得しやすい雇用環境の整備」が義務化されています。

国はこれらの義務化、そして産後パパ育休の柔軟な育休制度を活用し、女性の育児負担軽減、少子化問題の解決、産後うつの防止に繋げていきたいという狙いがあります。

一方、企業としては人手不足、代替要員の確保、働き方の改善、風土づくり等、様々なことに向き合わないといけません。「男性育休」はハードルが高い!という気持ちも痛いほど理解できます。

そもそも、なぜ日本は男性育休を推進しているのでしょう。

日本の男性育休取得率は2021年に過去最高の13.97%を記録しました。国は2025年には30%達成を目指しています。

少子化に歯止めをかける為には、男性の育児参画が必要になりますが、「育休」がどれくらい出生率に影響があるのか。

内閣府の「仕事と生活の調査(ワークライフバランスレポート2016)によると、男性が休日に育児参画する時間が長くなるほど、第一子を授かった女性が第二子を出産する割合が増えていることが読み取れます。男性の育児参画が全くない状態ですと10%、逆に6時間以上の場合だと87.1%という結果が報告されています。

出生率への影響が全て、男性の育児時間によるものとは言えないと思いますが、影響が小さいとは言えなさそうですね。ちなみに2022年積水ハウスの調査によると、沖縄男性の家事育児時間は全国第二位という結果もあります。

■阻むものは何?課題とその解決法

男性育休を推進するにあたり現状どんな課題が浮き彫りになっているのか。

厚生労働省が中小企業向けに作成した「男性の育児休業取得推進」の資料から抜粋した「男性の育児休業取得にあたっての課題」を見ていくと主に以下の4点が挙がってきます。

【第一位】代替要員の確保(従業員・企業)

【第二位】男性自身が育児休業をとる意識がない(企業)

【第二位】職場がそのような雰囲気ではない(従業員)

【第三位】休業中の賃金保証(従業員・企業

この上記の課題については企業の規模や業種にもよりますが、よくクライアント企業からご相談いただく課題でもあります。

そこで私は3つの質問も経営者や管理職にしています。

①「男性育休は平均どのぐらい取得すると思いますか」

②「代替要員の確保をするにあたり何が課題になりますか」

③「男性育休を促進すると御社にとってどんなメリットがありますか」

まず①の質問をすると多くの企業で、男性も女性と同じぐらいの期間、取得すると思われている可能性が大きいです。

もちろん男性も女性も同じ育休制度ですので、原則として子が1歳になるまで(保育園に入れない場合などは最長2年)取得は可能ですが、実際は、男性育休の約50%が2週間未満の取得となっており、6ヶ月以上の取得者は5%にも達しません。あくまでも世間のデータにはなりますが、こういったデータを入れておくと自社ですぐに「できない」と決めつけるのではなく、少し頭が柔らかくなりませんか。

少しづつ、できることからやっていきましょう!

次に②の質問でよく課題と挙げられるのが下記の3つです。

ア、代替要員が確保できない(新規採用)

イ、代替要員を確保する予算がない

ウ、業務が属人化し引き継げる相手がいない

この解決策について、以下をご提案します。

 課題ア「代替要員が確保できない」の解決策 

【解決案A】妊娠の報告をもらった段階で育休の意向を確認し、早い段階で採用計画を立て実行する。ただし、下記に記載されている内容が申出期限になるので申出期限前の確認の場合は意向確認と同時に期間の目安を確認していきましょう。(育児休業の申出期限:休業の1ヶ月前、産後パパ育休申出期限:休業の2週間前)

このAのアイディアは普段からコミュニケーションをとっておかないと早い段階で妊娠の報告をもらえない可能性があるので話しやすい環境や気軽に相談できる仕組み、1on1等もオススメです。

【解決案B】どうしても代替要員の確保が難しい場合は、分割取得や育休期間中の一時的・臨時的就労の提案も有効です。男性育休は育児休業中の間に2回の分割取得ができ、さらに雇用者である企業と労働者の合意があれば、子の養育しない期間に限り育休期間の間に一時的・臨時的に就労してもらうことも可能です。育休期間中の一時的・臨時的に就労することを通称「半育休」と呼ばれていますが、半育休の場合は10日以内の業務(10日を超える場合は80時間以下)であれば育児休業給付金が支給されます。

※留意点がその他にもありますので下記のリーフレットより詳しくはご確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000706037.pdf

 課題イ「代替要員を確保する予算がない」の解決策 

両立支援等助成金(出生児両立支援コース)や(育児休業等支援コース)の活用もオススメです。育児休業等支援コースでは、業務代替支援で新規採用した場合は47.5万円、新規採用はせず別の社員がカバーした場合は10万円。それぞれ要件を満たし審査に通れば助成されます。

 詳しくはこちらも参考になります。https://www.mhlw.go.jp/content/000927607.pdf
 課題ウ「業務が属人化し引き継げる相手がいない」の解決策 

まず、業務の棚卸しを行う。普段から業務の棚卸しを行い整理することができれば属人化防止だけでなく本当に必要な業務に集中することできるので生産性向上にも繋がります。一部の大企業が数年に1度のペースでジョブローテーションを行うのも業務属人化の排除を1つの理由として行っております。

弊社のクライアント企業でも毎回、誰かが育休入る前に業務の棚卸し、整理を行っており無駄な業務フローがなくなり残業時間が減少した企業も増えています。

また、業務の分散や他メンバーに引き継いだことにより、他のメンバーのスキルアップにもなったという例もあります。引き継ぐ相手の業務が増えて可哀想というお声も聞きますが、実は引き継がれる相手のスキルアップの機会になるケースもあるのです。

例えばマネージャー層の男性が育休に入る場合、その業務がメンバーに分散されるため、一時的でもワンランク上の業務を実施することができ個々のスキルアップに繋がる。ちなみに私のクライアント企業でも上記の例と同じケースがあり、管理職に興味がなかったメンバーが管理職を目指したり、他のメンバーもリーダーシップを発揮して主体的に行動してくれるようになったという、思わぬうれしいお話も聞きました。

■企業側にメリットは?

男性育休を促進することによる企業側のメリットは?と問われ、思い浮かぶのは

「定着率の向上」

「人材確保」

「社会的信頼の確保」

ではないでしょうか。

定着率の向上については、財団法人こども未来財団の調査によると男性育休を歓迎した企業は取得者はもちろん、その他の社員も含めて会社への愛着度が増したという結果が出ています。実際に企業の好事例も多く存在します。

次に人材確保への効果。Z世代(20歳ー24歳)、ミレニアル世代(25歳ー39歳)の層から男性育休は大きな注目を集めています。パーソナルキャリアの調べによりますと、

「もし子供が産まれたら積極的に育休を取得したい」という問いに対して「積極的に取得したい」との回答は、ミレニアル世代男性で80.1%、Z世代の男性男性は84.6%に上りました。

私自身も県内大学生のキャリアカウンセリングで男性育休というキーワードをよく耳にするようになりましたし、企業を選ぶ際「ワークライフバランス」を意識している学生は多いと感じています。

最後に社会的信頼の確保について。

男性育休が要件に入っている子育てサポート企業に認定される「くるみん認定」や女性の活躍を推進する企業に認定される「えるぼし認定」の取得に繋げることができます。沖縄県の認定制度ですと、ワークライフバランス認証企業の要件の1つに男性育休取得率10%があります。

これらは国や地方自治体が実施する認定制度となり、認定されると公共調達の加点対象、助成金の対象、金利優遇等、様々な面で優遇措置が取れますので各要件をチェックしてみてください。

上記の3つ以外にも自社にとって多くのメリットがあると思います。

自社にとってのメリットを抑えることができたら、自社の目標を設定し周知していきましょう!例えば、男性育休取得率20%、男性育休取得者を1名は出す等。

■取得しやすい風土づくりを

ここまで話をしてみて、推進したい!できそう!思った方もいらっしゃると思いますが

制度が整備されても取得しやすい「風土」がつくれていないと残念ながらなかなか前に進みません。

取得しやすい風土はそれぞれの企業の現状や課題を見ていかないとアドバイスや情報提供が難しい部分もありますが、その中でも特に効果的だったと感じるのは「企業トップからのメッセージ発信」と「管理職や一般職に向けた男性育休推進研修、ハラスメントやアンコンシャスバイアス(無意識な偏見)を理解する研修」等を実施すると、企業全体の意識改革や「男性が育休とるなんてありえない」といった無意識の性別役割の緩和を促し、男性育休のみならず一人一人が働きやすい職場づくりへ発展していくのはではないでしょうか。

■産後うつは4人に1人が発症する??

著者自身も2人の息子を授かり、現在子育てに奮闘しています。

私の話で大変恐縮ですが、一人目の出産後まもなく、私自身に病名の分からない謎の湿疹が全身にでき、後陣痛と同時に全身から激しい痒みと痛みに襲われた経験があります。

痛みや痒みと戦いながら、目に飛び込んでくる痛々しい身体を見るたび涙が止まらず、でも息子をしっかり育てなきゃと奮起して寝不足状態でおっぱいをあげて、また自分の病気と育児に対する不安で涙が止まらない。

そういったループが3ヶ月ほど続いていました。今振り返ると、産後うつまではいかないけど、その予備軍だったのではないかと思います。

その様子を察した夫が更に家事育児に参画するようになり、結果的にそこから5ヶ月後、夫が計1年4ヶ月の育休に入ることになりました。

夫も育休期間は慣れない育児と向き合い、私が感じていたことと同じようなことを感じ経験し「育児」の大変さはもちろん息子との幸せな時間な過ごすことでより家事育児の参画に積極的になっていきました。今では、私よりも夫の方が息子のことを理解していると思います(笑)。

2020年に筑波大学が調査したデータによると、1歳未満の乳児をもつ母親の24%が産後うつの可能性があるという結果が出ています。約4人に1人の割合で産後うつを発症する可能性があり、発症の時期を調べていくと産後4週間以内が最も発症する確率が高くなります。

産後は私のように想定していないことが起こるケースも多いと助産師や保健師さんから伺ったことがあります。そんな時にそばで支えてくれる人がいたら…。

産後パパ育休は、産後ママの心と身体、そして命を守るための施策です。

一人でも多く、一日でも多く、1時間で多く、男性育休の取得が県内でも増えていくことを

願いながら、私も日々奮闘していきたいです。

◆執筆者プロフィール

福島知加(ふくしま・ちか)(株)ワダチラボ代表取締役

営業、人事、キャリアコーチの経験を経て独立。 人材支援歴12年。

企業や自治体の人材育成・定着支援、大学生の就活〜求職者支援を実施しこれまで2万人以上の支援に携わる。

2021年10月より育休取得者向けのオンラインスクール「育休スイッチ」を開校。

趣味はアイドルを応援すること、泡盛を嗜むこと。2児のママ。