那覇市長選で前那覇市副市長の知念覚氏が当選を果たしたのは、コロナ禍で経済や市民生活が打撃を受ける中、実績を強調し「即戦力だ」と訴えた知念氏に対する市民の期待が大きかったと言える。知念氏は城間幹子市政を基本的に受け継ぐ立場だが、米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設については賛否を明示せず、名護市長の判断を尊重するという姿勢だ。県都那覇の市長が政府と協調姿勢に転ずるという意味では大きな転換点となる。
知念氏は政策発表会見などで、辺野古新基地を念頭に「那覇市政から離れた政治姿勢で国との対立、市議会での対立を招くべきではない」と述べてきた。だが市議会で主に市当局の議案に反対したり城間市長の言動を追及したりしてきたのは、今回の市長選で知念氏を擁立した自民会派だ。知念氏の当選によって自民が与党に、オール沖縄勢力が野党になるが、今後与野党が市民本位で議会としてのチェック機能を果たせるかも問われる。
知念氏は「県と国の裁判を見守る」という渡具知武豊名護市長の姿勢を尊重している。「名護市民は苦渋の決断をし、渡具知氏が再選した。非常に重い」と述べたが、名護市民に苦渋の決断を迫り、基地問題で県民の分断を引き起こしてきたのは、民意を無視する政府と県外の人々の無関心だ。こうした沖縄に対する向き合い方も改めて問われている。
(伊佐尚記)