【識者評論】「オール沖縄」勢力は現実直視を 翁長前知事の「遺産」では勝てない 佐藤学・沖国大教授<那覇市長選>


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佐藤 学氏(沖国大教授)

 那覇市長選挙の結果は、後継者・知念覚前副市長の勝利で、城間幹子市長の業績を市民が認めたと言える。

 しかし、言うまでもなくこの選挙の意味はそれをはるかに超える。「オール沖縄」勢力は、県内市長選で全く勝てない現実を直視しなければならない。今回、翁長雄志前知事の次男を立てて敗れたことは、翁長前知事の政治的「遺産」では、もはや那覇市長選挙も勝てない現実である。それは、県知事選での玉城デニー知事の勝利は、玉城知事の個人的な人気によるものであり、その人気は市の次元の選挙には全く波及しない現実でもある。

 辺野古新基地建設反対の県民世論が引き続き強いことは、県知事選挙結果から明らかである。しかし、その民意を、より生活の現場に近い市町村次元の選挙につなげられない現状は、県知事が掲げる基地政策の正当性を弱体化させる。

 市町村次元で、国の政策受け入れと引き換えの財政支援への支持が広まっているのは、県自体がそのあり方を認めているからである。

 国の圧力に抗して、自治の確立を求めていくためには沖縄の自治を損なう沖縄振興のあり方を変えねばならない。「オール沖縄」にはその認識が無い。一括計上・高率補助の沖振法のあり方、そして、内閣府の意図で操作される一括交付金を「使い勝手が良い」「沖縄に必要」と、継続を求め続ける一方で、辺野古を止める闘いで勝利することはありえない。政府が懐に手を突っ込むことを認め、好きにさせていれば、この選挙結果が常態化する。

 「翁長」の名前の神通力はもはやなく、「オール沖縄」の組織的広がりも、組織の強さももはやない現実を認識し、そこから再構築する覚悟が必要だ。沖縄を戦場にしてはならない、という目標、それに道を開く軍事基地強化阻止は、それこそ「オール沖縄」で取り組まねばならないのだから。
 (政治学)