ヤンバルクイナなど希少鳥類のiPS細胞を初作製 保全や治療薬の開発に期待 環境研など


この記事を書いた人 Avatar photo 金城 潤
作製されたヤンバルクイナのiPS細胞(国立環境研究所提供)

 国立環境研究所などは25日、ヤンバルクイナなど国内に生息する絶滅危惧鳥類の人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製に成功したと発表した。iPS細胞からさまざまな細胞に分化させることで、鳥インフルエンザなど感染症や汚染物質への耐性を調べることができ、保全や治療薬の研究進展にもつながる。研究成果は24日、英国の科学誌「Communicatons Biology」に掲載された。

 ヤンバルクイナのほか、ライチョウ、シマフクロウ、ニホンイヌワシからiPS細胞を作製した。絶滅危惧鳥類からのiPS細胞作製は世界初。iPS細胞の元になった細胞は死がいや落ちた羽などから採種した。

 iPS細胞を神経や肝臓の細胞に分化させることで、鳥インフルエンザに伴う脳炎の死亡リスクや、汚染物質の代謝や毒性の程度などを高度に調べることが可能になる。生体を使った実験が困難な絶滅危惧鳥類で、試験管内の実験のみでさまざまなリスクを調べられることが利点だ。

 国際的にもiPS細胞は保全研究に活用されてきたが、鳥類はiPS細胞の技術応用が進んでいなかったという。同研究所は「試験管内での発生・生殖・繁殖などの基礎研究を通じ、効率的な繁殖を進めるための基礎的知見の集積も期待される」と強調した。

 ヤンバルクイナは、本島北部地域でのロードキルで死んだ個体などから採種した細胞をiPS細胞作製に用いた。研究グループに県内からNPO法人どうぶつたちの病院沖縄(長嶺隆理事長)が参加した。長嶺理事長はヤンバルクイナの鳥インフルエンザへのリスク究明などに触れ「保全に活用する科学技術が確立された」と指摘。「いろいろな化学物質にさらされているかもしれない、沖縄の野生動物の(状況究明の)一歩だ」と強調した。

 事故に遭ったヤンバルクイナの死がい回収や、傷ついた個体の保護に協力してきた住民の存在にも目を向ける。「忘れてはいけないのは(研究の)末端に住民・市民が関わっていることだ。『(保護活動は)やる意味がある』と、今回の成果で分かっていただけるとうれしい」と強調した。(塚崎昇平)