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那覇市長選 「祖国」沖縄のために団結を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 那覇市長選挙(23日投開票)では、自民党と公明党が推薦する前那覇市副市長の知念覚氏が玉城デニー知事ら「オール沖縄」勢力(共産、社民、社大、立憲、れいわが推薦)が支援する前県議の翁長雄治氏を破って初当選した。

 東京の政治エリートやマスメディアは「知事選や参院選では『オール沖縄』が推薦する候補者が、那覇市長選挙では自公が推薦する候補者が当選した。いったい沖縄の民意はどうなっているのか」と首をかしげている。自公対野党という東京の構図で沖縄の政治を見ている日本人には沖縄の民意を理解することが難しい。

 沖縄の政治における最大の不幸は、ヤマト(沖縄以外の日本)の政治的思惑で、沖縄社会に分断が生じていることだ。翁長雄志前知事は、この分断に終止符を打とうとした。筆者は、生前の翁長氏と何度も意見交換をしたことがある。翁長氏が繰り返し口にしていたのが、那覇市長として参加した2013年1月13日に東京で行われたオスプレイ配備撤回を求める集会と行進のときの出来事だった。

 「銀座で日章旗を掲げた連中が街宣車で『売国奴』とか『中国の手先』とか私たちに罵声を浴びせかけた。こういう連中は、以前からいたので驚かなかった。ショックを受けたのは、こういう連中に銀座通りで抗議している人が、僕の目に入る限り、1人もいなかったことだ。沖縄復帰の頃と比べ、日本人は変わったんだと思った。もう東京でこういう抗議行動をしても意味がないと思った。これからはヤマトによって作られた分断を克服するのが僕たちの世代の仕事だ。僕たち保守は、腹六分目、いや腹四分目で我慢する。革新の人たちと信頼関係を構築したい。ウチナーンチュの団結を回復したい」

 翁長氏のこの言葉が筆者の頭と心に焼き付いている。翁長氏が亡くなって4年になるが、沖縄では再びヤマト政治の論理による分断が生じている。

 本紙は24日の社説で<今回の市長選は、翁長氏の父である雄志前知事が提唱した政治的枠組み「オール沖縄」の在り方に一石を投じた。/この枠組みは雄志氏がイデオロギーよりアイデンティティーの重要性を喚起し、具体的政治課題として辺野古新基地建設反対を掲げて中道、一部保守、革新勢力を統合した。しかし雄志氏の後継である城間幹子市長が、辺野古の争点をぼかした知念氏を支持したことで、枠組みが揺らいでいることが明らかになった。オール沖縄勢が推す玉城県政を含めた再構築が課題となる。/実務経験の豊富な知念氏に市民が託したのは、コロナで傷ついた経済や福祉といった暮らしの再構築である。党派性を超え、市民の尊厳を守るという原点を念頭に、知念氏には市政運営を望みたい>と主張した。

 筆者もこの主張に同意する。玉城知事と知念新市長に求められるのは、中央政治と異なる位相で、沖縄人の団結と沖縄の利益のために真摯(しんし)な対話を開始することだと思う。知念氏は市長時代の翁長氏の側近だったので、翁長氏の思いを皮膚感覚で理解していると思う。玉城氏も翁長政治の継承を本気で考えている。

 政治家にはさまざまなしがらみがある。少しだけでいいからこのしがらみから自由になってほしい。翁長氏の沖縄パトリアティズム(郷土愛、祖国愛)に立ち返り、われらの「祖国」沖縄のために、玉城氏と知念氏が勇気を出して、ヤマトによって強いられたウチナーンチュの分断を克服する努力をしてほしい。

  (作家、元外務省主任分析官)