【深掘り】防災人材育成、議論進まず 首里城の管理体制 ノウハウ継承に課題


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防災対策について説明する沖縄美ら島財団防災危機管理室の宮里正室長(左)と屋嘉比勝氏=28日、那覇市の首里城公園管理センター

 首里城火災から31日で3年が経過する。11月3日には正殿の復元工事に本格的に着工するなど再建が進む一方、防災対策面では人材育成に向けた新たな仕組みの議論が停滞している。火災があった国営の有料区域と無料区域、県営区域の三つのエリアはそれぞれ沖縄美ら島財団が2025年度末まで指定管理するが、県の「首里城公園管理体制構築検討委員会」の委員からは従来の仕組みではコストが掛かる防災を担う人材は育成できないという指摘が上がっている。同委員会では指定管理制度の見直しを含め新たな仕組みを検討しているが、道筋は見えていない。

 首里城焼失3年

 正殿は文化財のため、建築基準法は適用されない巨大な木造建築物だ。一度火の手が上がるとたちまち燃え広がる危険性が指摘されてきたが、火災当時の管理体制は「一般的なビル管理」(同委員会の委員)と同様だった。夜間火災は想定されておらず、初期消火に失敗して全焼した。

 火災の教訓から、新たな正殿にはスプリンクラーが設置される。公園内の放水水量を強化するため貯水槽を新設するなど多くの機器を導入する。

 課題となった火災覚知直後の情報共有についても、公園全体の防災情報を共有する体制を構築するため、公園管理センターを増設して機能強化をする。

 ただハード面が整ったとしても、現行の指定管理制度では入札結果によっては数年で管理者が交代する可能性があり、防災の要となる人材のノウハウが継承できない。

 このため同委員会の委員を務める阿波連光弁護士は、指定管理制度の中から防災面だけを切り離して、公務員が直接24時間体制で管理する手法などを提案する。兵庫県の姫路城の対応を参考としている。県は23年度中に結論を出す考えだ。

 一方、指定管理を受ける沖縄美ら島財団は複雑な思いを抱く。財団は火災の反省から、21年4月に防災危機管理室を設置した。今年4月には那覇市消防局の総務課長だった屋嘉比勝氏を防災危機管理担当に招いた。屋嘉比氏の指導の下、毎月防災訓練を実施している。

 宮里正防災危機管理室長は「財団としてはコストが掛かっても継続的に防災の備えを高めていく。客を迎える上で安心安全な運営は原則だ。防災だけを切り離して財団が全く安全管理をしないのは現実的には難しい面がある」と話した。

 防災の議論は火災にとどまらず、地震や風水害の想定も求められる。正殿だけでなく将来的に復元される円覚寺や中城御殿までの幅広い範囲までの防災を見据えた議論が必要となる。

 阿波連弁護士は「防災面のノウハウを継承する人材の育成が肝となるが、かなり広い範囲を対象とした管理体制の在り方の検討も必要となる。前例がなく、議論は進んでいない」と語った。
 (梅田正覚)