【深掘り】民間空港や港湾を自衛隊が使いやすく 強まる公共インフラの「防衛力」化 日米共同訓練の利用で進む地ならし


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陸上自衛隊の車両を海上自衛隊の輸送艇に積み込む訓練=2021年11月19日、石垣市の石垣港

 防衛力強化に向けて政府は、沖縄県を含む南西諸島を念頭に民間の空港や港湾を自衛隊が使用できるよう機能を強化する動きを着々と進めている。10日、県内で始まった日米共同統合演習「キーン・ソード」でも民間の空港や港湾を日米で共同で利用するなど、既に地ならしは始まっている。県民生活に密接に関わる公共インフラが「防衛力」に組み込まれ、有事に標的となる危険性が高まることが懸念される。

 政府は、国土交通省が担う空港や港湾の整備に防衛省のニーズを反映させる新しい制度を検討している。自衛隊が使えるようにしたい空港や港湾を「特定重要拠点」に指定し、優先的に予算を措置する考え方だ。国家安全保障局や防衛省、海上保安庁を含む国交省でつくる関係省庁会議で、防衛省のニーズと国交省の整備計画をすり合わせる。

 想定されるのは、自衛隊の戦闘機や輸送機が使えるよう空港の滑走路を補強したり、延伸したり、大型の船舶が港湾に入れるよう拡張したり、深くしたりすることだ。

 関係者によると、先島諸島で自衛隊の輸送艦が寄港できる規模の港は、宮古島市の平良港と石垣市の石垣港に限られるという。そのため、防衛省・自衛隊にはほかにも寄港できる港を増やしたいという狙いもある。

 既に民間と自衛隊が使っている那覇空港については、第1滑走路と第2滑走路をつなぐ誘導路が1本のため、自民党内では攻撃を受けても那覇空港を使い続けられるように増設すべきだという意見が上がっている。

 一方「予算を投じて整備しても実際に使えなければ意味がない」(政府関係者)として、平時から自衛隊の訓練を認めることが条件になるとみられる。自衛隊の使用を担保できるよう、各施設の利用規定の改定などが自治体などに求められる見込みだ。

 一般的に戦闘機や輸送機が円滑に離着陸できるとされる約3千メートルの滑走路があるのは、県内では那覇空港と宮古島市の下地島空港だ。下地島空港は1971年に日本政府と琉球政府の間で民間機以外の使用を認めないとする「屋良覚書」が交わされており、政府としてはこの「壁」を突破して自衛隊の使用を可能にする狙いも見え隠れする。

 防衛省関係者は「使える港や空港は増やした方がいい」と語る一方で「有事になれば、第一に攻撃を受けるリスクは当然ある」と危険性も認める。

 政府は空港や港湾の強化は「国民保護にも役立つ」と強調するが、国民保護を所管する総務省は「特定重要拠点」を決める関係省庁会議に入らない予定だ。国民保護よりも防衛ニーズの議論が中心的になる見通しで、住民の保護につながるか、実効性は不透明と言える。
 (明真南斗)