CIAとSVRの協力 直接戦争避けたい米ロ<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 ウクライナ戦争が第3次世界大戦に発展しかねない事件が起きた。

 <AP通信は15日、ロシア軍のミサイルがウクライナに隣接するポーランド東部に着弾し、2人が死亡したと報じた。米政府当局者の話としている。ウクライナ領内を飛び越えた可能性もある。ウクライナ侵攻で北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に着弾したのは初めて。/(中略)ロシア国防省は「ウクライナ・ポーランド国境でいかなる攻撃も行っていない」と発表した>(16日、本紙電子版)

 事実がどうであっても、ポーランドもロシアも自らが発表した立場を翻すことはないであろう。ここで重要なのは米国がどのような判断をするかだ。表の外交の世界は「見解の対立がある場合、同盟国の主張が正しいとみなす」というルールで動く。ポーランドはNATOに加盟する同盟国であるので、米国はポーランドの主張が正しいという立場で動く。日本はNATOの加盟国ではないが、米国の同盟国なので、ポーランドとロシアの言い分が異なる場合はポーランドの方が正しいという立場を政府もマスメディアもとる。

 もっともこれはあくまでも表の外交の話だ。裏のインテリジェンスの世界の人々は別の動きをする。ポーランドに着弾したミサイルがロシア製であったのか、ロシアが撃ったとしても意図的なのか誤爆なのかを慎重に判断する。

 インテリジェンスの動きは表に出てこないのが原則であるが、あえて表に情報を流す場合もある。<ウクライナ情勢をめぐり、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官とロシアの対外情報庁(SVR)のナルイシキン長官が14日、トルコ・アンカラで会談した。ロイター通信などが報じた。2月のロシアのウクライナ侵攻以来、最も高いレベルでの米ロ高官の会談とみられる。/同通信によると、核兵器使用の脅しを繰り返すロシアに対して、バーンズ氏が「核使用の代償とエスカレートのリスク」を伝えることが目的だったという>(15日「朝日新聞デジタル」)

 バーンズ氏の目的は「核使用の代償とエスカレートのリスク」を伝えることだったということだが、ロシアは、核兵器使用に踏み込むのは、核攻撃を受けた場合もしくは通常兵器による攻撃であっても国家存亡の危機が生じたときだけだと繰り返し述べている。

 米軍が提供した兵器がロシア本土の攻撃(9月にロシアが併合したルガンスク州、ドネツク州、ザパロジエ州、ヘルソン州を除くと考えるのが現実的だ)をしないならば、ロシア国家が危機に陥ることもないので、ロシアが核兵器使用に踏み切る事態も生じない。米国が提供した兵器でウクライナがロシア本土を攻撃することはないという「管理された戦争」の枠組みをバーンズ氏とナルイシキン氏が確認したのである。米ロ両国は直接戦争を避けたいという強い意思を持っている。

 今回のポーランドへのロシア製ミサイルの着弾問題についても、CIAとSVRが事態の沈静化に向けて水面下で動いていると筆者はみている。

(作家・元外務省主任分析官)