【深掘り】一般道路を戦闘車が走行、オスプレイが集結…対中国念頭の日米演習、離島生活に影


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与那国駐屯地に設置された「日米連絡調整所」で作戦を同期させている米海兵隊員と陸上自衛隊員=16日、与那国駐屯地(米軍サイト「dvids」より)

 2年に一度の日米最大規模の実動演習「キーン・ソード23」は、陸上自衛隊の16式機動戦闘車(MCV)が県内で初めて一般道路を走行する訓練が与那国島で実施されたほか、鹿児島県の徳之島では日米のV22オスプレイが集結する着上陸訓練が南西諸島で初めて実施された。相手に占拠された島々の奪還作戦を想定する自衛隊と米海兵隊は、対中国を念頭に置いた実戦的な連携を確認。住民にとっては、日常生活の間近まで有事の想定が迫っているという実感が強まる形となっている。

 自衛隊が地元に示した資料によると、陸自与那国駐屯地では米海兵隊とともに「日米連絡調整所」を設置し、国民保護などに関して日米間の連携を確認する訓練を行うと説明された。だが、実際には実戦を意識した訓練も行われていた。

上陸想定
 

 同調整所は米軍の発表では「二国間陸上戦術調整センター」(BGTCC)と記述された。

 自衛隊によると現場レベルで戦術調整を行う場所で、陸自と米海兵隊の担当者が分野別に隣り合って座り、地図を見ながら戦術をすり合わせる。

 今回の演習では那覇、奄美大島にも設置。熊本県にはより大規模に編成された「二国間陸上作戦調整センター」(BGOCC)が置かれ、戦術調整センターとの連携も確認したという。

 今回の演習では武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」と、日本が直接攻撃される「武力攻撃事態」の両方を想定している。与那国島などでは、一部に相手国が上陸することも想定したといい、より実戦的な演習に仕上げたことが分かる。

外交関係に遅れ
 

 「課題や懸案があるからこそ、率直な対話を重ねる」

 与那国島でMCVが公道を走行した17日夜、岸田文雄首相はタイ・バンコクで会談した中国の習近平国家主席に呼び掛け、日中の対話を活性化させる決意を語った。

 日中首脳の対面会談は3年ぶりとなった。日米首脳の直接会談が本年度だけで3回行われていることを踏まえると、冷え込んだ日中関係の再構築は緒に就いたばかりだ。

 米中対立の火種となる台湾のほか、尖閣諸島周辺では日中の公船同士がにらみ合い、偶発的な衝突を引き起こしかねない状況がある。外交交渉や相互理解が後手に回る一方、日米連携による軍事力向上に重きが置かれ、日本の安全保障は軍事一辺倒の“片輪走行”が続いている。

 10日に始まった日米共同統合演習は19日に最終日を迎えるが、防衛省は今後も民間施設や民間地を自衛隊が訓練などで平時から使えることを模索している。与那国町幹部は「(島民が演習に)あまり慣れてしまうと怖い。早く地域の緊張が収まるよう、一致点を見いだしてほしい」と外交の取り組みに託した。

(明真南斗、知念征尚、西銘研志郎)