【識者談話】有事想定の訓練、住民のリスクに関する議論なく 佐道明広氏(中京大教授)


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 台湾有事の可能性が声高に語られるようになって、抑止力強化の名目でさまざまなことが行われている。自衛隊も実際の有事を想定した訓練を行う段階に入った。与那国島は台湾をにらむ最前線の基地として使われる可能性が極めて高い。

 南西諸島への自衛隊配備を巡っては、過疎化対策の経済的メリットばかり唱えられた与那国島はもちろんのこと、宮古島も石垣島も住民のリスクについて具体的な議論はされなかった。不安を抱いて反対した人もいたが、無視されて配備はどんどん進んだ。

 基地が配備されることは当然攻撃の対象にもなる。先島の自治体は大慌てで国民保護計画を作ったが、実現は相当困難だ。

 有事の際、与那国島の港も飛行場も軍事的に使用される可能性は極めて高い。ではいつから軍事的に使用されるのか。そうすると住民をどうやって逃がすのか。そういったことはまるで調整されていない。

 抑止が失敗した時には、住民も攻撃に巻き込まれる可能性は高い。有事の際は具体的にどのようなケースが想定されるのか。港湾や飛行場の使用について、自治体側と防衛省側の事前の打ち合わせを早急に行う必要がある。

 住民保護が取り残されたまま、抑止力強化の名の下に、軍事面の強化だけ進む現実は極めて問題だ。そういうリスクを改めて明らかにしたというのが今回の機動戦闘車訓練の側面ではないか。住民も肌身に感じたことだろう。与那国島は今まで国境の島と言われていたが、これからは住民不在の国防の島となる恐れがある。

(防衛政策史)