prime

沖縄戦継承、教訓を土台に今を考える 石川勇人 沖縄国際大学大学院生<明日からできるわたしの一歩>


この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者
石川勇人

 これまでの戦争体験の継承においては、体験者の戦争体験を非体験者へ語り継ぐということが前提となってきた。しかし、沖縄県内の戦争体験者が1割を切る見込みであることが、2022年6月29日の琉球新報で報道された。よって、これまでの前提に頼った継承は難しいと言わざるを得ないであろう。では、どういう切り口が必要とされるのだろうか。その例として、筆者が地域の人々や体験者とともに取り組んでいる宜野湾市嘉数区の事例を取り上げてみよう。

 宜野湾市嘉数区は、沖縄戦時に日本軍と米軍の激しい攻防戦が展開された地域で知られている。そのため、平和教育の一環で県内外から多くの学習者が訪れている地域である。

 ある日、筆者が自治会長や語り部の方たちと意見交換をしている際、地域の子どもたちが地域の人たちの戦争体験に触れる機会が充実していないという話題が上がった。その課題を聞き、体験者や地域の人の意見を取り入れながら、平和学習の機会を作れないかと筆者は考えた。

宜野湾市嘉数の地域の人たちと一緒に作った平和学習を中学生向けに実践する様子

 そこで地域の人や語り部を交え、平和学習のあり方に関する会議を開いた。その会議で非体験者が考える平和学習のプランを提案したが、そのプランには体験者や地域の人が伝えたい点が十二分に反映されていないという課題が浮き彫りになった。そこで筆者は、体験者や地域の人から、平和学習において何を重視してほしいのかを聞き取り、その意見を取り入れながらプログラムを再考した。体験者との対話を通じて、お互いの価値観を学びながら、よりよきあり方を共に考えた結果、一つの平和学習プログラムを行うことができたのである。

 沖縄戦体験を語り継ぐ人々は、長い時間をかけ沖縄戦について学び、そして現代社会で起こっていることを過去に重ね合わせながら、二度と戦争を起こさないという教訓を築いてきた。そう考えると、現在と過去を学んでこそ、よりよき未来を考えていけるのではないか。

 現在、ロシアのウクライナ侵攻でまさに戦争が起こっている。「私」が「平和」を実感している一方で、ジェンダー問題、開発問題、あるいは貧困問題とさまざまな問題が未解決のままである。もしかすると、SDGsでも掲げる「平和と公正」を手に入れることができない人々が、あなたのそばにいるかもしれない。だからこそ、そうした人々に出会った際に、目を背けるのではなく、なぜ苦しんでいるのか、そこを解決するためには、どういう視点が必要かを共に考えることが、私たちにできる一歩ではないか。