【全文】国側の主張<辺野古不承認訴訟・沖縄県の主張と国の主張>


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第1回口頭弁論に臨む国側=1日、福岡高裁那覇支部(代表撮影)

 第1 原告の法定受託事務の処理は、本件裁決の拘束力に反し、違法であることが明らかであること

[1] 本件の是正の指示は、公有水面埋立法に基づく事務処理として、原告が、2020年4月に沖縄防衛局が行った本件変更承認申請を承認しないことは違法であり、また、著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害しているものであることから、原告に対し、本件変更承認申請を承認するよう指示したものです。

[2] 原告は、本件指示の違法をいう前提として、その前にされた本件変更不承認処分を取り消した本件裁決が無効であると主張しています。

 しかし、すでに、20年最高裁判決において、国の機関を相手方とする埋立承認を撤回した処分が、行政不服審査法で審査請求の対象から除外される「固有の資格」において処分の相手方となるものではないと判示されています。この20年最高裁判決からすれば、本件裁決により取り消された本件変更不承認処分は、同じく「固有の資格」において処分の相手方となるものではなく、審査請求の対象となるものであることは明らかで、原告の本件裁決が無効であるとの主張は、20年最高裁判決におよそ反しています。

 また、本件審査請求について、法定受託事務の審査庁を法令所管大臣と定める地方自治法に基づき、被告が審査庁としてこれを審理・裁決することが法令上妨げられる理由は何らなく、被告が本件裁決をしたことは権限の濫用にも当たりません。

 したがって、原告の主張に理由はなく、本件裁決が有効であることは明らかです。

[3] また、原告は、本件指示を違法とする理由として、本件変更承認申請について原告がした本件変更不承認処分の判断が適正であった旨を主張しています。

 しかしながら、原告がした本件変更不承認処分は、本件裁決により取り消されており、その処分が適正であったとの主張は、すなわち本件裁決の審査時における主張の繰り返しであり、本件裁決の拘束力に反し許されないものと言わざるを得ません。

 すなわち、裁決によって処分が取り消された場合、処分庁は、行政不服審査法52条1項及び2項により、裁決の趣旨、すなわち裁決の主文及びこれを根拠づける具体的理由に従った行動を義務付けられることとなり、同一の理由により同一の処分を行うことが禁止されます。

 したがって、本件裁決が、本件変更承認申請が公有水面埋立法の要件に適合しないとした本件変更不承認処分について、これを不承認とする理由にはならないことを示した上で、違法かつ不当であるとして、本件変更不承認処分を取り消した以上、本件裁決の拘束力により、処分庁である原告は、本件変更不承認処分と同じ理由で不承認とすることは法律上できないこととなります。にもかかわらず、原告が、本件変更不承認処分と同じ理由を本件変更承認申請を承認できない理由として繰り返し、それをもって本件変更承認申請を承認するよう指示した本件指示が違法であると主張することは、裁決の拘束力に反するものに他なりません。

 また、そのような主張を認めることは、審査請求人の権利利益の救済や紛争の早期解決等を考慮して、裁決等を国地方係争処理委員会への審査申出の対象となる「国の関与」から除外した地方自治法の趣旨や行政不服審査法の目的に明確に反するものです。

 したがって、本件指示の違法事由として、本件変更不承認処分が適正であること、すなわち、本件変更不承認処分の判断が適正な裁量権の行使であることを主張しても、これらは理由になり得ません。

[4] そして、本件指示は、法定受託事務に係る法適用の適正確保の見地から、本件変更承認申請を承認しない沖縄県の事務遂行が、法令の規定に違反し、また、著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると明らかに認められることからしたものであり、本件指示は、関与権限の濫用といったものではあり得ません。

[5] 以上のとおり、被告がした本件指示は適法であり、国地方係争処理委員会においても、その旨判断されているところです。

 第2 原告の主張する内容を子細に見ても、本件変更承認申請を承認することができないとして原告が述べる事由はいずれも理由がないこと

[1] 「国土利用上適正且合理的ナルコト」及び「災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」の要件について

 (1) 原告は、本件変更承認申請における地盤改良は、規模的に前例がなく、また、技術的に確実性が認められない、他の未改良地盤が残る事例が本件変更承認申請に参照すべき事案か不明であると主張します。

 しかし、本件変更承認申請における地盤改良の工法であるサンドコンパクションパイル工法は、地盤改良の工法として一般的なもので、その施工実績が豊富で、沖縄県内においても施工実績があり、本件埋立事業と同程度又はそれ以上の規模の前例も複数あるものです。また、そもそも、地盤改良とは、構造物の下部の地盤の全てを一定の強度にすることを目的とするものではなく、構造物の安定性の確保を目的とするものであり、構造物の安定性の確保に必要な範囲において地盤改良が実施されることになるもので、未改良地盤が残る事例も当然存在します。本件変更承認申請においても、地盤改良の範囲を検討し、実施予定の範囲で地盤改良がされれば、技術基準・同解説に基づく安定性能照査基準を満たすことが確認されており、他の未改良地盤が残る事例と同様に安定性が確認されているのであって、原告の主張には理由がありません。

 (2) 原告は、B―27地点の力学調査を行わずにされた土質定数の設定が適正ではなく、同調査を行う必要があるなどと主張しています。

 しかし、本件変更承認申請においては、大浦湾側の地盤調査について61カ所のボーリング調査、15カ所の電気式コーン貫入試験、22測線の音波探査及び2測線の弾性波探査などが実施されています。この大浦湾側の地盤調査については、専門家・学識経験者の委員で構成される技術検討会において、その適正・合理性の確認がとられ、本件審査請求の手続で実施された専門家による鑑定においても、適正かつ合理的なものであるとされています。

 そして、技術基準・同解説に準拠した手順により、この地盤調査の結果に基づいて設定された土質定数についても、技術基準・同解説上、地層区分について再検討する必要や、土質調査をやり直す必要はないとされる数値になっていて、技術検討会においても、鑑定においても、この上更にB―27地点の力学調査を行う必要はないとされているところです。したがって、B―27地点の追加調査を行う必要があるという原告の主張には、根拠がありません。

 (3) 原告は、施工時の調整係数mを110とすることは妥当でなく、不確定性を考慮したか不明であると主張します。

 しかし、本件変更承認申請において施工時の調整係数mを1・10に設定することは、技術基準・同解説に適合するものです。この点も、技術検討会においても、鑑定においても、調整係数の設定は適切であるとされており、不確定性についても、適正に考慮されたもので、その適正性は客観的に十分に担保されています。

[2] 「環境保全…ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」の要件について

 原告は、ジュゴンに及ぼす影響等に関して、予測及び評価が不適切であるなどと指摘します。

 しかし、本件変更承認申請書に添付された環境保全図書において、本件埋立事業の実施がジュゴンに及ぼす影響については、様々な調査が行われて情報が収集されており、工事区域において発生する騒音のうち、工事に伴う水中音がジュゴンに及ぼす影響については、既往知見等を参考として、本件願書に添付された環境保全図書と同じ手法により予測及び評価されています。また、これらについて、専門家により構成された環境監視等委員会にも諮られていることからすれば、適切な予測及び評価が行われているといえるものです。

 また、地盤改良に伴い地盤が盛り上がる箇所の環境影響についても、同様に、適切な予測及び評価が行われているといえるものです。

[3] 以上を含め、原告の主張は、いずれも根拠や理由を欠くもので、本件変更承認申請を不承認とする理由たり得ないものです。

 第3 結語

 以上のとおり、原告の請求は、理由がないことは明らかであり、直ちに棄却されるべきです。

 以上