「面前DV」子に被害 心身に影響、県内も増加


社会
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 全国の児童相談所が2014年度に対応した児童虐待の件数が過去最多を更新した。このうち、暴言などの心理的虐待が増加傾向にある。県内でも、子どもの前で配偶者らに暴力を振るう心理的虐待「面前DV」が増えてきた。子どもはDVのもう一人の被害者だ。虐待対応に当たる児童相談所とDV加害者対策を行う機関の話を通して、「面前DV」が子どもに及ぼす影響と、子どもの安全を大人がどう確保するか考えたい。(新垣梨沙)

 児童虐待は「身体的虐待」「育児放棄(ネグレクト)」「性的虐待」「心理的虐待」に区分され、児童虐待防止法では、家庭内のDVを見て子どもが心に傷を負う「面前DV」も虐待と定義している。
 14年度の全国の虐待通告件数は8万8931件で、初めて8万件を突破した。通告の内訳は29日現在で未公表だが、警察が12年ごろから「面前DV」を積極的に通告し始めたことや、13年度の「子ども虐待対応手引き」の改訂によって、虐待を受けた子どものきょうだいも新たに「心理的虐待」で通告されるようになり、全国的に心理的虐待の件数は増加している。
 県内の場合、同年度に対応した児童虐待件数478件のうち「面前DV」を含む心理的虐待は、前年度比75件増の134件となり、増加の傾向を示している。県内でDV加害者の更生事業などに取り組んでいる更生保護法人がじゅまる沖縄は、今後「面前DV」に絡んだ加害者の相談が増えると予測する。
 県中央児童相談所は児童虐待の対応に当たり、家庭の背景に見えてくる問題として「家庭に飲酒の問題がある場合が多い。周囲はお酒が入ったせいだと言ったりもするが、飲酒をしていようがいまいが、暴力や暴言があること自体が配偶者や子どもに大きなダメージを与えている」と指摘する。
 さらに、DVや虐待被害者が保護され、それまでの生活を制限される一方で、加害者側はこれまでの生活を続けている状況があるとし「加害をした者が家庭から離れ、更生プログラムを受ける仕組みや、被害者のそれまでの社会生活が保障される仕組みが必要だ」と訴える。

長引く被害者の苦しみ

 「面前DV」を受けた子どもは、不安や恐怖などのストレス下に置かれることで、身体や心にさまざまな影響が出る。県中央児童相談所によると「面前DV」を受けた子どもは一般的に不安や心配が大きくなり、親への恐怖心が出てくる場合が多いという。
 逆に親から離れられなくなり、口げんかでも過剰に反応することがある。他者と人間関係を築くことが困難になり「自分なんて価値がない」と自己肯定感が低くなる場合も多い。
 がじゅまる沖縄によると、今まで誰にも話せず、心の中にしまい込んでいた子ども時代の経験を40代や50代を超えて初めて話す人もいる。多くが現在もトラウマを抱えている。工事現場の重機の音など日常の物音を耳にした途端、幼少のころの出来事がよみがえる「フラッシュバック」を起こす人もいる。DVや虐待の影響は長期間に及んでいる。

福祉司や心理司 ケアに手回らず/負担感大きく
 警察が児童虐待防止の取り組みに力を入れる一方で、通告を受ける児童相談所はマンパワー不足が指摘されている。
 県内児童相談所の場合、児童虐待を担当する児童福祉司1人当たりが受け持つ件数は平均30~40件。中央児相によると、終結後に再び保護者からの連絡が入り、継続して対応する「目に見えない件数」を含めた場合は、平均60~70件になるという。1人当たり150件を超えるケースを担当していた職員もいる10年前と比較すると改善されたものの、依然、児童福祉司の負担感は大きい。
 厚生労働省がことし10月の「児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会」で公表した報告書によると、13年度の相談対応件数が1999年度比で約6・3倍だったのに対して、児童福祉司の配置数は約2・3倍。件数の伸びに対して、福祉司の配置が全国的に追い付いていない実態がある。
 また、子どものケアに当たり、福祉司と同数程度いることが望ましいとされる児童心理司の配置人数は14年4月現在で、福祉司配置の44・5%にとどまる。中央児相は「福祉司と心理司はペアを組み対応に当たる。子どものケアはとても大事だが、心理司が少なくケアに手が回っていない」とし、心理司の増員も必要との認識を示した。
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<識者談話>大前提は子どもの安全
名嘉ちえりさん(がじゅまる沖縄 DV加害者更生相談室研究員)

 講演で関わった子どもたちの数は、2007年度からことし9月までで述べ6万人になった。中には「面前DV」を受けていると相談してくる子もいる。家での出来事を、親に強要されなくても口に出せず、心にしまい込んでいたケースが多い。子どもは、学校で楽しいことがあっても家で喜びを分かちあえず、不安な気持ちの時も、親に心配をかけまいと話せないことが多い。心の中は常に孤立している状態だ。
 両親の仲が悪いのは、自分のせいだと思い込み、感情を押し殺していい子を演じる子もいる。自分に注目を向けるために何らかの問題行動を起こす場合もある。早くから子どもらしい感情を奪われ、その状態が長く続いてしまうと、いつか子どもの心は壊れてしまう。
 子どもをDVや虐待から守るためには、仲が悪くても両親は一緒に暮らすべき、子どものために離婚は踏みとどまるべき、という社会の概念を、子どもに安全と安心を与えるために、暴力のない家庭環境をつくるべきだ、という社会概念に変える必要がある。例え、子どもが両親に離婚してほしくないと言う場合でも、その大前提は「両親の仲がよく笑顔が絶えない家庭」で、憎み合ったままで一緒にいてほしいわけではない。
 夫婦仲の改善が難しく面前DVを防ぐために離婚を選択したとしても、子どものことを考え、協力して子育てをすることはできる。それができる環境になるためにも、加害者は「怖い人」から脱却しなければならない。例え離婚したとしても、子どものために変わる必要がある。
 子どもの健やかな育ちで根底にあるべきは、安全を守り、いい環境を与えること。両親がそろうことが前提ではない。ひとり親でも祖父母でも、里親でも子育てをする皆が笑顔で愛情を注げばいい。子育てが困難な家庭がある場合は、足りないものを社会が補うべきで、社会の皆で子どもと親を支えていければいい。