自国民守れず本末転倒 山本章子氏(琉球大准教授)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>① 


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山本章子氏(琉球大准教授)

 新たな国家安全保障戦略は「国民保護のための体制の強化」と銘打ち、「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく」避難計画の策定や輸送手段の確保をうたっている。しかし、敵からの攻撃が始まっていない状況で、安全保障に関する情報を持たない自治体が、住民避難の必要性をどう判断するのかという根本的な問題がなおざりにされている。自治体が住民の避難に責任を負うとする国民保護法の欠陥を改善するのが先決ではないか。

 また、民間空港・港を自衛隊が有事に使えるようにすることで、自衛隊が住民避難を円滑に行えるかのような表現となっているが、国際法には軍民分離の原則がある。自衛隊が住民を自衛隊機・艦船に乗せて移動するのは軍事行動と見なされ、敵からの攻撃を招く可能性があるので、自然災害とは異なり、自衛隊が住民を避難させることは慎重に考えなければいけない。太平洋戦争中で米軍の沖縄上陸の7カ月前の1944年8月、九州に疎開する沖縄の児童を載せた日本軍用船が米国の潜水艦に撃沈された対馬丸の悲劇を、沖縄県民は忘れていない。

 さらに、有事となれば自衛隊は戦闘が優先で、余力があれば住民避難を行うと自衛隊法にはある。加えて、自衛隊が民間空港・港を使う場合には民間機・船は入れなくなる。有事勃発の前に住民避難が完了しなければ、島しょの住民は島に閉じ込められて戦闘に巻き込まれるということだ。

 自国民も守れないのに米中の戦争に参加して台湾を守るのが日本の国家安全保障戦略なのか。安全保障とは国民を外部の脅威から守る政策であるはずが本末転倒になっていると言わざるを得ない。
 (国際政治史)