繰り返す言葉は「ピース」…ウクライナ出身・コバルチュークさん、沖縄から祖国思う 現地支援へ団体設立


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ウクライナの民族衣装を着て、古里への思いを語るアラ・コバルチュークさん=26日、北中城村

 故郷(こきょう)を思い、心落ち着かない年の瀬を迎える人がいる。ロシアによるウクライナ侵攻開始から約10カ月。ウクライナ出身で沖縄在住6年目のアラ・コバルチュークさん(48)=沖縄市=は、自宅を追われ避難先で生活している両親ら肉親の様子を語ると「悲しみだけ」と体をかがめ、ため息を漏らした。「戦争を止めて。早く」。沖縄から戦禍の生国に思いをはせる。

 ウクライナ南部のヘルソンで育った。同じクリスチャンの比嘉啓勝さん(48)との結婚を機に、2017年から沖縄へ。翌年夏、娘のマリアちゃん(4)を授かった。

 穏やかな暮らしはロシアの軍事侵攻で一変した。「21世紀のヨーロッパでこんなことが起きるなんて」。恐怖心とともに、3歳下の弟のことが頭をよぎった。ウクライナ軍の兵士で、東部の最前線にいた。

 心配で食事が喉を通らなかったが、1週間後に連絡がついた。両親も無事だった。しかしその後、ヘルソンはロシア軍に制圧され、両親は別の街に避難。弟も持病が悪化し、避難生活を送る。

 アラさんは3月、夫らと支援団体「沖縄ウクライナ難民救済協会」(OURRS)を設立。寄付金を募り、SNSなどでつながったウクライナ現地の人を支援している。乳飲み子を抱え、地下室から「助けて」と訴えてきた母親。母親を亡くした7歳と9歳のきょうだい…。通信アプリから届く声は、どれも切実だ。

 発電所などが破壊され、各地で電力不足が続く。水もガスも足りない。「停電が続くと凍死する人も出てくるかもしれない」。ヘルソンはウクライナが奪還したが、ロシア軍の攻撃は続いている。クリスマスイブの朝も砲撃があり、州知事によると、16人が亡くなったという。

 アラさんは「沖縄の人の支援に感謝している」とした上で「クリスマスでさえミサイルは落ちている。このひどい状況を知ってほしい」と訴える。

 昨年夏、マリアちゃんを連れて帰省した。とても楽しかったようで、今も「(祖父母に)会いたい」と訴える。その願いは、すぐにはかなえられないかもしれない。でもいつか、実家の庭になるおいしいチェリーを食べさせてあげたい。そのためにも「平和が欲しい」。アラさんは「Peace(ピース)」の単語を繰り返した。
 (眞崎裕史)