来年はどんな年か ウクライナ戦争2度の山場<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 今年は筆者にとって思い出に残る特別の出来事がいくつもあった。個人的には1月に腎不全による透析導入、3月にがんによる前立腺全摘の手術、8月には90%の冠動脈狭窄(きょうさく)が見つかりステント手術を受けた。「病気のデパート」のような1年だった。

 また国際情勢では、2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。この戦争は現在も続いている。来年の国際情勢で最も注目されるのがウクライナ戦争の帰趨(きすう)だ。この戦争はロシアとウクライナの間で展開していると見ると事柄の本質が分からなくなる。これは米国を中心とする西側連合(日本もそこに含まれる)とロシアの間で展開されている価値観戦争なのだ。西側連合はアングロサクソン流の自由と民主主義が普遍的で絶対に正しいと考えている。

 他方、ロシアはこういう価値観は米国、英国、フランスなどでは通用するが、ロシア、中国、インド、中東、アフリカ、中南米、東南アジアなどの諸国にはなじまない特定の文化と結び付いたものに過ぎないと考えている。それぞれの国家と民族は独自の文化とおきてを持っているというロシアのプーチン大統領が10月27日にモスクワ郊外で行われたヴァルダイ会議での発言内容に共感している国家は意外に多いとフランスの人口学者で歴史学者のエマニュエル・トッド氏は指摘するが、筆者も同じ考えだ。

 ウクライナ戦争の山場は、来年、2回ある。一度目は4~5月だ。この頃になると冬に備えていたウクライナの食糧備蓄が尽きる。ロシアによる変電所を中心とするウクライナのインフラ施設に対する執拗(しつよう)な攻撃を加えた。そのため今秋、ウクライナでは穀物の収穫が十分にできなかった。そのため来春に食糧不足が起きる可能性が高い。このとき西側連合がウクライナが望むだけの量の食糧を迅速に供給しなくては、ウクライナは継戦能力を失う。恐らく西側連合は全力で食糧支援を行うので、ウクライナは食糧不足を克服するであろう。

 二度目は11~12月だ。この冬、ドイツは十分に天然ガスを備蓄することができたので冬の寒さを乗り越えることができたが、ロシアからの天然ガス供給が途絶えたので来冬の備蓄には不安がある。この問題が解決されないとヨーロッパが対ロシア強硬策を取れなくなる可能性がある。ウクライナの食糧問題とドイツのガス備蓄問題が解決すれば、この戦争は長期化することになる。

 もっとも米国は、西側連合が提供した兵器でウクライナがロシア領を攻撃し、第3次世界大戦に発展することは是が非でも避けたいので、「管理された戦争」をウクライナに強要する。米国が望んでいるのはウクライナの勝利ではなく、ウクライナ人を用いてロシアを弱体化させることだ。

 そこで死んでいくのは普通のウクライナ人たちだ。筆者は論壇の主流派とは異なる即時停戦論を一貫して説いている。風当たりも強いが、沖縄戦で九死に一生を得た母の思いを継承することが息子としての責務と考えている。自らのルーツに沖縄があることを痛感する一年だった。皆さま、よいお年をお迎えください。

(作家・元外務省主任分析官)