沖縄で進む有事の拠点化 自衛隊拡大は最終局面に 県民に「しわ寄せ」<追う南西防衛強化>


この記事を書いた人 Avatar photo 瀬底 正志郎

 2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を10年間で加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、23年には石垣駐屯地が開設される。政府が目指す「南西地域の防衛強化」の姿や、想定する「脅威」の実態とは一体何なのか。県内の自衛隊配備の現状や県民への影響を考える。

水陸両用車で徳之島町管理の海岸に上陸する様子を住民らに見せる陸上自衛隊の水陸機動団=2022年11月18日、鹿児島県徳之島町

 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、南西諸島の防衛体制の強化を強く打ち出した「安全保障関連3文書」が2022年12月に決定し、日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えた。県内では陸上自衛隊第15旅団を「師団」に格上げする方針が示され、人員を飛躍的に増加させるほか、敵基地攻撃を担うミサイル部隊の配備などが進む見通しだ。過重な米軍基地負担を抱える中、自衛隊配備増強が上乗せされ、日本全体の防衛の「しわ寄せ」が県民へと向かうことになる。

 2012年の尖閣国有化を契機に、中国の動きが活発化している。沖縄周辺では、中国海警局の船舶や中国軍艦艇による尖閣諸島周辺の領海や接続水域の航行が重ねられている。
 こうした中、22年は米中対立を背景に台湾情勢が一層緊迫化した。同年8月に、ペロシ米下院議長の訪台に反発し、中国軍は大規模な演習を実施し、一部のミサイルが波照間島近海に落下した。台湾に近い与那国島の漁業関係者らは演習期間中、漁の自粛を迫られた。大国間の対立のはざまで、穏やかな生活は脅かされ、島民に「台湾有事」への危機感が募る。

 一方、安保関連3文書では南西地域の空港や港湾などを整備・機能強化する方針が打ち出され、公共インフラを自衛隊が使いやすい仕組み作りを進めるとしている。政府内では法令や規定を改正する案も上がる。民間インフラの軍事利用が常態化すると、観光立県・沖縄の社会、経済への影響も否定できない。

 県民の中で、台湾有事への恐怖や危機感が高まる一方、78年前の沖縄戦を経験し、自衛隊に複雑な感情を抱く人も根強いのが現状だ。日米安全保障条約で日本の防衛義務を担うとされる米軍の専用施設が7割集中する中で、さらなる自衛隊の配備がなぜ必要なのか論理的な説明も乏しい。

 23年は、石垣島へ初めて自衛隊部隊が配備され、駐屯地が新設される。「南西防衛」の掛け声の下に自衛隊配備増強の流れが今度も続くと見込まれる中、安全保障の最前線と位置付けられた沖縄は今、大きな岐路に立たされている。

(池田哲平)