【識者談話】安保3文書の欺瞞と軍拡利益の行方 亡国の安保計画 前泊博盛・沖縄国際大教授<追う南西防衛強化>


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前泊 博盛氏

 昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書で、南西諸島で始まった自衛隊配備強化によるこの国の「軍事大国化」計画の全容が明らかになった。防衛力整備計画によると軍拡の規模は今後5年間だけでも総額43兆円。年間国家財政の半分を軍拡に充てる。現行の防衛費5兆円の8倍にあたる軍事大国化予算を打ち出している。

 装備の強化は自衛隊という軍隊の肥大化、機能拡大も前提にしている。海上自衛隊は海上保安庁を有事に統合・統制する軍事一体化を図る。海保に限定してきた尖閣対応に海自の出番が来れば、有事に発展しかねない。航空自衛隊は宇宙戦争に備え「航空宇宙自衛隊」に改組される。

 陸上自衛隊はミサイル部隊を強化し、米国からトマホークミサイル500基を購入装備し、沖縄の陸自第15旅団を師団規模に拡大し、南西諸島に中国本土にも届く長距離射程の敵基地攻撃能力を備える。

 「島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾」「南西地域における補給拠点の整備」も明記され、沖縄が戦場として想定され、地上戦を戦うための兵站(へいたん)(補給)基地の強化が盛り込まれている。沖縄戦を戦った日本軍「第32軍」の再来を想起させる布陣、増派に向けた準備に映る。

 補給を断たれた沖縄戦の反省が生かされているのであろう。的外れな「歴史に学ぶ教訓」が明記されている。

 なぜ沖縄が戦場にならねばならないのか。なぜ「本土決戦」は明記されないのか。なぜ沖縄県民の保護計画は策定されないまま、ミサイル配備が強行されるのか。沖縄県民が抱く素朴な疑問に、新・国家安全保障戦略に、その答えはない。

 コロナ禍で疲弊するこの国に、莫大な負担を強いる軍拡計画が「亡国の安保計画」とならないか。「本土・首都決戦」を想定したならば、成り立たない国家安全保障戦略の欺瞞(ぎまん)性も垣間見える。

 主権者たる国民は、今回の安保関連3文書をうのみにせず、誰がこの計画策定の裏にいるのか、巨額の軍事費がどこに流れるのか、軍拡利権を精査し、何から何を護(まも)るための計画か、その本質を見抜いてほしい。

(安全保障論)