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北朝鮮からのシグナル 核使用視野に態度を硬化<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 12月31日、北朝鮮・平壌市の朝鮮労働党中央本部の前で、軍需工業部門の労働者による600ミリ超大型ロケット砲の贈呈式が行われた。贈呈式に金正恩・朝鮮労働党総書記が出席し、演説を行い、600ミリ砲の意義についてこう述べた。

 <一年中、党と革命のために尽くしてきた軍需工業部門労働者の熱烈な愛国衷情に感謝の念を禁じ得ず、心から感服していますが、このように一年が暮れている終わりの日まで忠誠の汗と純潔な良心をささげて、当該連合企業所は全ての軍需工業部門労働者の心まで合わせてわが党が一番念願し、わが軍隊が一番待ちこがれていた主力打撃兵器である600ミリ超大型ロケット砲30門をわが党に贈呈しました。/これは、共和国武力の軍事的・技術的発展を全的に担当している軍需工業部門労働者の並々ならぬ愛国忠誠心と無尽蔵な潜在的能力、革命的闘争気概がどのようなものであるかを全世界に誇示した驚異的な成果です>(1日「朝鮮中央通信」日本語版)

 金正恩氏が「驚異的成果」と誇る600ミリ砲がどの程度の威力を持つのであろうか。韓国紙「中央日報」によると核兵器が搭載でき、韓国南部の釜山まで到達可能ということだ。

 <科学技術政策研究院の李春根名誉研究委員は「600ミリなら世界の放射砲のうち最も大きい」とし「事実上の弾道ミサイル」と説明した。米国情報当局も超大型放射砲を短距離弾道ミサイル(SRBM)に分類し、KN―25というコードを付けた。/ミサイルは自ら標的に向かうが、放射砲はこうした誘導機能がない。しかし最近は技術が発展し、放射砲も誘導機能を備えながらミサイルとの境界が崩れる傾向にある。/2019年8月25日に初めて試験発射をした超大型放射砲は移動型ミサイル発射台(TEL)で動く。最大射程距離は400キロほどで、軍事境界線(MDL)近くで発射すれば釜山まで到達する距離だ。超大型放射砲は高度30キロまで低めることが可能だ。600ミリ級超大型放射砲に核弾頭を搭載するのは難しくない>(2日「中央日報」日本語版)。

 600ミリ砲を保有することで北朝鮮の韓国に対する攻撃能力が高まったと見ることができる。

 ここで重要になるのは北朝鮮の意思だ。従来、北朝鮮が核兵器と大陸間弾道ミサイルの開発を進める動機は、米国を交渉の場に引き出すことだった。しかし、米国のバイデン政権は、北朝鮮の思惑には乗らず、交渉に応じる気配がない。この状況を踏まえた上で、北朝鮮の米国と韓国に対する姿勢を硬化させているようだ。大みそかの演説で金正恩氏はこう述べた。

 <今日、軍需工業部門労働者が党と革命に贈呈したあの武力装備は、軍事技術の面から見ると、高度の地形克服能力と機動力、奇襲的な多連発精密攻撃能力を備えており、南朝鮮の全域を射程圏に入れ、戦術核の搭載も可能であるため、将来にはわが武力の中核的な攻撃型兵器として敵を圧倒的に制圧すべき自己の戦闘的使命を果たすことになります。/(中略)わが党と共和国政府は、敵の妄動や挑発に対し、核には核で、正面対決には正面対決で!という断固たる対応意志を宣言しました>(前掲「朝鮮中央通信」)

 米国が北朝鮮を攻撃した場合は、米国の同盟国である韓国に対して核兵器を使用する可能性を北朝鮮指導部が本気で考え始めたのかもしれない。朝鮮半島の緊張を理由に、「国防の島」としての沖縄の機能を一層強めようとする動きが出てくると思う。

(作家・元外務省主任分析官)