<書評>『別冊太陽 琉球・沖縄を知る図鑑』 俯瞰しながら詳しくなる


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『別冊太陽 琉球・沖縄を知る図鑑』監修 田名真之 平凡社・2970円

 琉球・沖縄の歴史や民俗・自然を学んでいくと、知識は増えるが、わからないこともたくさん出てくる。疑問ばかりといってもいいかもしれない。だからこそ楽しいし、面白い。だからこそ、それらに応えるべく数多くの沖縄本が生まれているのだと考えている。それらを読むことによって、疑問が一つずつ解消されていくのは楽しい作業。また疑問が生じてくるのも、悩ましいが、余計に楽しさが倍増する。

 そしてまた一冊、琉球・沖縄について多くのことを教えてくれ、またわからないところを再確認させてくれる本が誕生した。

 本書は、いにしえの琉球びとの精神世界を表現しているともいえるオモロから始まり、神々の世界を紹介し、先史時代から復帰世までの歴史を紹介している。特に、第一尚氏から第二尚氏への政権交代、交易にみる琉球の国力の推移など、ダイナミックな歴史像をみることができる。それが研究の第一線で活躍している方々が書いているのだから、なおさら琉球・沖縄の魅力を伝えてくれる。他に料理や芸能、工芸などのページも興味深いものばかり。それが見事な印刷で、図版等が掲載され、ビジュアル化されているのだからいうことはない。特に巻頭のオモロと写真の組み合わせは見事。古文書等の史料を筆頭に、各ページで展開される写真は、タイトルにある「図鑑」にふさわしい内容ともいえる。

 個人的には、「神々の古層」(ニライ社)によって、沖縄各地の祭祀記録を私たちに見せてくれた比嘉康雄を描いた「渚によりつく神々」が印象に残った。比嘉康雄の祭祀に対する思いが描かれていて、読後、すぐに蔵書の『神々の古層』をひもといたほど。横読みの喜びを味わわせてくれる書でもある。

 「海の王国の主役、琉球の船」をはじめとする歴史コラムも秀逸。一般の方々には目からウロコの情報も満載の一冊と断言してもいいだろう。

 まさしく、先史時代から近現代まで歴史や沖縄の人々の信仰観、芸能、料理、建築までを含んだ、琉球・沖縄を俯瞰(ふかん)できる好著。じっくり味わいつつ、楽しく面白く読みながら、琉球・沖縄史のことが詳しくなる書が誕生した。

(宮城一春・編集者)


 学者や専門家、教育委員会、文化財関係者など多くのジャンルの人たちが取材や執筆に協力、田名真之氏が監修を務めた。編集人は竹内清乃氏。