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「学校が変わった」…人事評価導入で声上げづらく<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(2)小学校教員


「学校が変わった」…人事評価導入で声上げづらく<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(2)小学校教員
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉数 陽
学校で配布された人事評価項目の一部。昇給・降給、ボーナスなどに反映される。管理職が評価する=2022年12月末、沖縄県内

 「やばい、もう5時過ぎている」。小学校教員の女性は、慌ててタイムカードを押した。残った仕事はその後も続けるが、退勤したことにしておく。他にも数人が打刻して机に戻っていった。

 「今月残業が多かったのは◯人です」。職員会議での発表は恒例になりつつある。業務改善なしに、どうやって就業時間内に仕事を終えられるのかー。管理職による評価が給与に反映される人事評価システムが導入されて、校内で意見する人は減った。いつからか、もう学校はこのままなのだろうと諦める気持ちが大きくなった。

 ■全国学力テスト

 「学校が変わった」と最初に感じたのは、2007年。全国学力テストが実施され、沖縄は小中全教科で最下位だった。学力向上が至上命令とされ、対策のための授業、補習が急激に増えた。本来テストは個々の学習のつまずきを確認し、定着につなげるためにある。しかし「全国学テ最下位脱出の大号令」を前に、子どもも教職員も疲弊していった。

 「心の成長とか、生きる力の育成が見落とされる気がする」。不安に感じる中、学力向上対策の担当者就任を命じられた。学年主任の仕事もある。学力向上対策で膨れ上がった業務とプレッシャー、さらに管理職から強い叱責(しっせき)を受けることもあり、調子を崩した。手が震え、体重は激減、言葉を話すことも難しくなり、初めて病休を取った。心療内科への通院を誰にも知られたくなくて、遠方の病院に通った。

 ■昇給に影響

 「本来は子どもの成長を間近で感じることができる、感動の多いすてきな仕事」と知っているだけに、辞めたくなくて心療内科への通院を継続しながら復職した。しかし再び、学校の雰囲気が変わる。

 14年の地方公務員法などの改正で、教員評価システムが導入された。人事評価が昇給、ボーナス(勤勉手当)に影響する。以前は管理職に意見していた人も、静かになった。

 児童の問題行動を報告しない人もいる。「とにかく声を上げづらくなった」。管理職は「評価に異議申し立てできる」と説明するが「力のある人に抗議することはとても難しい。なぜこんなシステムが導入されたのか理解できない」。

 大学生の息子は今年、教職課程の履修を止めた。人手不足の中、なり手の確保が職場環境改善の一手につながる。でも、どうしても「学校は楽しいよ」と言えない。

 現在も心療内科に通いながら勤務を続ける。英語の教科化、GIGAスクール構想など、新しい仕事が増え続ける一方で、削減された仕事は見当たらない。「子どもたちに夢を持たせる仕事なのに」。疲労が色濃くにじんだ表情のまま、うつむいた。

(嘉数陽)

 

連載「先生の心が折れたとき」

 精神疾患による教師の病気休職者が増え続けている。文部科学省の調査によると2021年度、全国の公立小中高・特別支援学校で過去最多の5897人。沖縄も過去10年間で最多の199人、在職者数に占める割合は全国で最も高い1・29%だった。心を病んだ理由はそれぞれだが、当事者の多くは要因の一つに、就業時間内に終えられるはずがない業務量を指摘する。休職者の増加は他の教員の業務負担につながり、さらに休職者が出る連鎖が起きかねない。心が折れてしまうほど多忙な教員の1日のスケジュールを取材した。

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