最高の味、どこでも 本格派フードカー


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 朝晩の冷え込みで秋の訪れを感じる今日このごろ。県内各地で「食欲の秋」を堪能できるグルメイベントが開催されている。カラフルな車体とおいしい料理で来場者を魅了するのがフードカー(移動販売車)だ。最近はメニューの専門性を高めた“本格派フードカー”が人気を呼んでいる。

本格的な熱々のピザを提供する「ザ・スカルペッターズ」のフードカー=10月25日午後、北谷公園野球場前広場

■レストランの厨房

 晴天に恵まれた10月25日昼、北谷町美浜で世界のビールを楽しむ「オキナワ オクトーバーフェスト」が開かれた。ビールを片手に、来場者が“古き良きアメリカ”をほうふつさせる黄色の大型バスの前で列を作っている。ピザの名店「バカール」(那覇市)が運営する「ザ・スカルペッターズ」のフードカーだ。
 車内をのぞくと調理器具の装備に圧倒される。本格的な熱々のピザを提供するためコンベヤーオーブンを搭載する。ガスレンジやフライヤー、冷蔵・冷凍庫、シンクなど移動販売車のレベルを超え、店舗レストランの厨房(ちゅうぼう)並みの備えだ。
 食材や料理にも徹底してこだわる。看板メニューのピザに使うチーズやオリーブオイル、塩はイタリア産を使用。じっくりと自然発酵で熟成させた生地を使うなど店舗同様の味と質を追求する。オーナーの仲村大輔さん(38)は「既存の屋台は質が低いと感じていた。店舗のレベルにギリギリまで近づけることにこだわりを持ちたい」と話す。
 隣にある黒色の小型トレーラーから白い煙が立ってきた。周囲に漂う香ばしい香りが客の鼻をくすぐり人が集まっている。
 トレーラーの中をのぞき込むと赤く燃えた炭が底に敷かれている。その上を、金網で挟んだ県産若鶏丸々1羽が鉄の棒に付けられ、肉汁を垂らしながらくるくる回り、あぶられている。
 スカル-が提供するハワイのストリートフード・フリフリチキンは、店舗では食べられない特別メニューだ。スカル-は、ピザ生地のサンドイッチやフィッシュ・アンド・チップスなどフードカー限定のオリジナルメニューも提供する。
 バカールの常連客でイベントに参加した具志堅まどかさん(25)=浦添市=は「店で食べられないメニューがあるから面白い。屋台よりもクオリティーが高く、味は間違いない」と笑顔で太鼓判を押した。

■ワンステップ上を

 10月27日昼、うるま市健康福祉センターうるみん横でフレンチレストランを思わせるイラストが描かれた白のワゴン車が止まっていた。欧州料理を提供する「ル・タン・リッシュー」だ。
 一番人気は500円のワンコインで数種類の料理が楽しめるランチボックスだ。この日は、フランスパンに野菜のマリネを挟んだサンドイッチとパセリソースをかけたチキンハム、イタリアのオムレツやマカロニのパスタなど多彩だ。
 メニューは日替わりで豚や鶏、魚の煮込みやグリル、ソテー、ワイン蒸しなど欧州料理の多様な調理法で客の舌を飽きさせない。オーナーの久高広大さん(30)は「沖縄の人に日常よりも“ワンステップ上”のおいしい料理、新しい味を味わってもらいたい」とコンセプトを語る。
 毎週火曜と木曜の営業日は必ず注文する歯科医師の藤田元哉さん(33)=沖縄市=は「基本を押さえつつも驚きある味付けでとりこになっている。東京の表参道でも通用するような料理がお手頃価格で楽しめる」と、舌の肥えた常連客をもうならせる。
文・宮城征彦
写真・花城太、金城実倫

店舗レストランの厨房並みの調理器具がそろう「ザ・スカルペッターズ」のフードカー=10月25日、北谷公園野球場前広場
欧州料理を提供するフードカー「ル・タン・リッシュー」のランチボックスを紹介するオーナーの久高広大さん=10月27日、うるま市安慶名

小型車でアイデア料理 親川元さん(県出店業事業協同組合副理事長)

 沖縄の本格的な移動販売車の歴史は1975年の海洋博前後から始まる。当時は、大型バスに釜や鉄板を設置して複数のスタッフで運営する移動パーラーのような形態が多かった。ハンバーガーや焼きそば、アイスクリームなどいろいろなメニューを提供していた。
 最近では食の多様化や販売車両の小型化が進み、デリバリーバンや軽自動車などを改造して、規模は小さいがおしゃれな移動販売車が増えてきている。車体が小さく、個人運営のために提供できるメニュー数は限られる。そのため、専門性の高い付加価値ある料理を提供する傾向にある。
 一昔前は、たこ焼きがはやればたこ焼きを売るように、ちまたの流行に飛び付く車が多かった。最近はケバブやフレンチなど流行に左右されず、特化した専門的な料理、アイデア料理で勝負する車が増えてきた。
 移動販売車は、イベント会場など人が集まる場所に自ら売りに出せる利点があり、県全域にお客がいる。一人で運営できる手軽さから今後は増えるだろう。

親川元さん(県出店業事業協同組合副理事長)