「戦争前夜」の空気感、世代の温度差… 沖縄の平和ガイドたちが今、「県民大会」を求める理由【アピール文全文】


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
ロタ島での戦争体験を語り、戦争反対を訴える仲井間小夜子さん(右)=26日、県庁記者クラブ

 「日米両政府に戦争しない・させないためのアピール」を発表した七つの平和団体のメンバーら20人は26日、那覇市の県庁で会見に臨み、“戦争前夜”と言うほどの危機感を訴えた。一方で戦争を知らない世代との意識の温度差にもどかしさも吐露した。県民世論の喚起に向け、提案された県民大会の必要性に、県がどう向き合うかも今後焦点となる。

 記者会見で、アピールの発出を呼びかけた沖縄市平和ガイドネットワーク代表世話人の森根昇さん(81)は当初、25の団体に声をかけたものの、18団体から「趣旨には賛同するが名前は出せない」と言われたことを打ち明けた。「これが時代の空気なのか。戦争体験者やガイドは“戦争前夜”という意識だが、若い人たちはそれをあまり感じていない」と漏らす。若い世代も交え、「県民総意の場」としての県民大会を提案。「全世界に訴える気持ちで県民大会を開いてほしい」と玉城デニー知事に求めた。

 「沖縄戦を知るピースウオーキング実行委員会」代表の垣花豊順さん(89)は「過去の戦争はなくすことができないが、これから起こる戦争は阻止することができる。阻止の原動力は人の心だ。地上戦を体験しているのは沖縄だけだから、県民は頑張らなければならない」と呼びかけた。

 沖縄市平和ガイドネットワークの仲井間小夜子さん(94)は戦前日本の委任統治下にあったロタ島で戦争を体験。学校に兵士が来るようになったことにけげんな気持ちを抱いたことや、艦砲射撃や機銃掃射を受けて命の危険にさらされたことを語り、会見後も「戦争を二度としてほしくない」と繰り返した。

 戦争を体験していない平和ガイドらも戦争体験者から思いを聞き、戦跡の案内などを通じ、その思いや教訓を伝えてきた。沖縄平和ネットワーク会員の川満彰さん(63)は「体験者が少なくなる中、戦争をしてほしくないというのが体験者の彼ら、彼女らの“遺言”だ。私たちは遺言と共に歩んでいく」と誓った。

 アピールの冒頭には「戦争はしてはならない」「命どぅ宝」など、戦争体験者らが語り続けた沖縄戦の教訓を盛り込んだ。南風原平和ガイドの会の井出佳代子会長(62)が読み上げ、「私たちの進むべき道は、憲法9条に謳(うた)われている『戦争の放棄(戦争しない・させない)』平和で豊かな社会だ」と決意を示した。
 (中村万里子)


日米両政府に戦争しない・させないためのアピール(全文)

 

 私たち平和ガイド及び語り部は、去る大戦の教訓から「戦争は敵味方無く多くの犠牲者を生み出す。戦争はしてはならない、命あっての幸福(しあわせ)、命は何事にもまさる宝(命どぅ宝)」、「軍事基地・軍隊は国民を守るためにあるのではない。沖縄戦では国のため・天皇陛下のため(国体護持のため)に戦い多大な犠牲者を出した」などと語り続けてきました。先の大戦では広島・長崎での原爆犠牲者を含め国民約310万人という夥(おびただ)しい人々が犠牲となっています。その教訓を踏まえ、私たちの進むべき道は日本国憲法・第九条に謳われている「戦争の放棄」(戦争しない・させない)平和で豊かな社会ではないでしょうか。

 2022年2月24日、ロシア・プーチン大統領はウクライナに侵攻し今日まで侵略し続けています。また東アジアでは北朝鮮のミサイル発射訓練が繰り返され、さらに台湾をめぐり日米両政府は「台湾有事」の危機を、外交交渉・話合いも持たず、軍事力増強競争を次から次へエスカレートさせて力で抑えこもうとしています。このようなことでは戦争を止めることは出来ません。

 琉球弧を含む第一列島線上で、自衛隊は米軍と一体化し、軍事演習を頻繁に繰り返しています。軍事専門家や沖縄戦研究者らは、岸田自公政権は戦争する国・大軍拡化へと突き進んでいると批判しています。

 日本政府は戦争法と言われている安保(法制)法、周辺事態法、国民保護法、機密保護法、土地規制法等々を活用し、私たち琉球弧を含む第一列島線上を拠点に、自衛隊と米軍が一体となった実戦さながらの軍事演習が強行されています。そして馬毛島、宮古・石垣島、与那国島・沖縄島等の軍事基地拡大・増強は、まるで去る大戦の「沖縄の不沈空母」化の様です。

 昨今の「キーン・ソード 23」軍事演習においては、民間港「中城湾港」、自衛隊軍車両等の運搬に民間船舶、一般従業員が活用され、そして与那国においても軍事車両が生活道を闊歩(かっぽ)したのです。戦争前夜というべき軍事優先の横暴なふるまいではないでしょうか。

 岸田自公政権は反撃能力=敵基地攻撃を可能にするため、安保3文書を閣議決定しました。さらに岸田政権は「台湾有事」を想定し、日米首脳会談(1月14日)で米大統領と安保3文書の反撃能力(敵基地攻撃能力)等の連携強化の確認をしました。このことは専守防衛から力による「先制攻撃可能な体制」へと「歴史的大転換」を意味し、絶対に許せません。防衛軍事予算も倍増され、最新兵器・極超音速誘導弾、弾道ミサイル、無人ミサイル、基地内のシェルター建設等々の戦争装備・準備を数年のうちにつくりあげようとしています。

 ところがウクライナ戦争では、軍事基地や軍隊が狙われて被害や犠牲者が真っ先に出ています。去る沖縄戦でも最初に狙われたのが軍事基地・軍隊でした。いかに軍備増強しても、そこが攻撃目標にされます。軍事力による抑止力で戦争は止めることができません。

 われわれ国民は、様々に発信される国やSNS等のプロパガンダに騙(だま)されないようにしっかり見極めることが大切です。

 日本政府に再び戦争をしない・させないために、私たち平和ガイド団体・語り部等はここに集い、去る大戦のすべての犠牲と沖縄戦の教訓に鑑み、国権の最高法規の憲法第九条を厳守し絶対に再び日本政府が戦争に突入することのないようここに厳しく訴えます。そして私たちは、日米両政府に戦争に突入しないことを力強くアピールします。

 2023年1月26日

 平和ガイド団体等

 沖縄県観光ボランティアガイド友の会 沖縄県平和祈念資料館友の会 南風原平和ガイドの会 沖縄平和ネットワーク 沖縄戦を知るピースウオーキング実行委員会 沖縄市平和ガイドネットワーク 東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター 他賛同・平和ガイド団体等・語り部