沖縄戦とウクライナ戦争 武器供与せぬ路線堅持を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 沖縄戦に動員された沖縄県内21の旧制中学校や師範学校、高等女学校の元学徒らでつくる「元全学徒の会」が12日に声明を発表した。この声明にロシアが反応した。ロシア政府が事実上運営するウェブサイト「スプートニク」がこんな論評(ドミトリー・ヴェルホトゥロフ著名)を掲載した。

 <沖縄戦に動員されて生き延びた元学徒隊の生存者らは、日本政府は沖縄戦の教訓を守り、隣国との平和を強化するため努力してほしいと訴えた。/また元学徒らは、再び沖縄を戦場にすることに断固反対するとの立場を明らかにしている。ロシアではこのような状況に関して、「直感というのは正しいものだ」とよく言われる。

 /実際に戦場で戦った人というのは、危険に対し、敏感に直感が働くものなのである。前線で向こうのはっきりしない音が攻撃開始を警告している。静かな口笛とともに、元学徒たちは地面に伏し、砲撃を始める。戦う人々はそれを覚えていて、人々に危険な瞬間が始まる兆候を伝えるのである。こうした習慣は何十年もの間、守られてきた。概して、戦争は常に、元学徒たちの頭の中に、そして記憶の中にとどまっている。

 /これは政治に関しても同じことである。/沖縄戦に動員された学徒らは、日本の総理大臣の演説を聞き、動員が行われ大学や学校から召集され、恐ろしい戦いが始まったあの1945年の春の日をはっきりと思い出したはずである。彼らが聞いたのは、78年前に起こったことを思い出させる言葉や表現だったのだろう。日本政府が今、突然、1945年の3月とほぼ同じことを言い出したということは、危険が近くにあり、それを全ての人々に警告する必要があると、元学徒らは考えたのかもしれない>(25日「スプートニク」日本語版)

 「スプートニク」編集部としては、沖縄戦の記憶を喚起することで、日本人に現在、岸田政権が推進する安保政策の危険性を宣伝することを意図しているのだと思う。ただし、この記事を読んだロシア人は別の思いを抱く。78年前に沖縄で起きたのと同じことが現在、ウクライナで起きている。西側連合がウクライナに戦闘能力の高い戦車を提供することによって戦線が拡大し、ロシアでも地上戦が行われる危険について想像するようになる。

 最近、東京を訪れた旧知のロシア人学者(改革派系)と意見交換したが「現時点でこの戦争はやむを得ないが、できるだけ早く停戦しなくてはならないと思っているのが大多数の国民だ」と述べている。これがマスメディアを通じては伝わらないロシア国民の本音と思う。

 現在、日本外務省の一部勢力(特に在ウクライナ大使の松田邦紀氏)が、岸田文雄首相のウクライナ訪問を画策しているが、この戦争に日本が深入りすることが国益に合致するか否かを慎重に検討する必要がある。現時点で、日本はウクライナへ殺傷能力のある武器を供与していない。この路線を堅持すべきだ。戦争が長期化することを防ぐために、西側連合の一員でありながら、ウクライナに殺傷能力のある武器を供与していない日本は、客観的に見て仲介者となる可能性がある。平和外交のイニシアティブを発揮する方が戦争に深入りするよりも日本の国民益にも国家益にも貢献すると思う。

(作家、元外務省主任分析官)