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創価学会の停戦提言 公明は首相に働きかけを<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ウクライナ戦争が新たな局面に入ろうとしている。1月下旬、米国、ドイツ、ポーランド、オランダなどが主力戦車をウクライナに提供することを決定した。ロシアは激しく反発している。準備や訓練の期間があるので戦車が実際に供与されるのは2、3カ月後になるだろうが、ロシアがミサイル攻撃を激化させることになるので、戦闘員のみならず一般住民の犠牲者が急増することになる。人命を救うために一刻も早く停戦を実現しなくてはならないと筆者は考える。

 停戦との関連で重要なのが1月11日、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長(創価学会名誉会長)が発表した「ウクライナ危機と核問題に関する緊急提言『平和の回復へ歴史創造力の結集を』」だ。連立与党の公明党の支持母体は創価学会だ。従って、池田氏の緊急提言は現実の政治に与える影響があるにもかかわらず、マスメディアでは大きく扱われていない(本紙は1月14日付で掲載)のが不思議だ。池田氏はウクライナ戦争を自らの戦争体験と結びつけている。

 <昨年2月に発生したウクライナを巡る危機が、止むことなく続いています。/戦火の拡大で人口密集地やインフラ施設での被害も広がる中、子どもや女性を含む大勢の市民の生命が絶えず脅かされている状況に胸が痛んでなりません。/(中略)“戦争ほど残酷で悲惨なものはない”というのが、二度にわたる世界大戦が引き起こした惨禍を目の当たりにした「20世紀の歴史の教訓」だったはずです。

 /私も10代の頃、第2次世界大戦中に空襲に遭いました。火の海から逃げ惑う中で家族と離れ離れになり、翌日まで皆の安否がわからなかった時の記憶は、今も鮮烈です。/また、徴兵されて目にした自国の行為に胸を痛めていた私の長兄が、戦地で命を落としたとの知らせが届いた時、背中を震わせながら泣いていた母の姿を一生忘れることができません>(1月11日「聖教新聞」電子版)

 この緊急提言で重要なのは、池田氏がウクライナ戦争についてロシアによる侵略という認識を表明していないことだ。停戦を実現することを現実的に考えるならば「お前たちは侵略国だ」と非難されている状況でロシアが交渉の席に着く可能性はない。池田氏は具体的に以下の提案を行う。

 <そこで私は、国連が今一度、仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦の合意を図ることを強く呼びかけたい。その上で、関係国を交えた首脳会合を行い、平和の回復に向けた本格的な協議を進めるべきではないでしょうか>(前掲「聖教新聞」)

 筆者も池田氏の提言を全面的に支持する。停戦の合意を図るために関係国が努力してロシアとウクライナの外相を交渉の席に着かせる努力をすべきだ。専門家(外務省の事務方)レベルの準備交渉ならばすぐに着手できるはずだ。日本は西側連合の一員であるが、ウクライナに殺傷能力を持つ武器を供与していないし、今後も供与すべきではない。

 これは日本がロシアとウクライナの仲介をする上で重要な要素だ。現在、一部勢力が岸田文雄首相のウクライナ訪問を画策しているが、そのような訪問でこの戦争に深入りするよりも停戦に向けたイニシアチブを取る方が国際社会における日本の地位を高めることになる。生命尊重、人間主義という基本的価値観を創価学会と共有する公明党には、政府内で停戦合意に向け岸田首相が動くようにぜひ働きかけてほしい。

(作家、元外務省主任分析官)