<書評>『第二の人生で勝ち組になる』 元プロ野球選手の努力


社会
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『第二の人生で勝ち組になる』松永多佳倫著 KADOKAWA・1870円

 ひとつの物事に打ち込み、プロフェッショナルになる。もしそうなれたらカッコいいと思う。

 身体能力に自信のある者はプロスポーツ選手を目指すかもしれない。しかしそれは果てしなく続く地獄の耐久レースだ。県大会や全国大会を勝ち進み、優勝かそれに近い成績を残さないと、プロにはなれない。プロになれたとて、百戦錬磨の先輩たちが立ちふさがる。目の上のたんこぶを押しのけて、やっとレギュラーに選ばれる。選ばれても安心できない。次々優秀な若手が入ってくるからだ。毎年、生き残りをかけた勝負を繰り返し、それが引退まで続く。なんて恐ろしい世界なのだろう。『第二の人生で勝ち組になる』は、その恐ろしい世界に一度は足を踏み入れた者たちのその後の話だ。

 登場人物はすべて元プロ野球選手で、現在はセカンドステージを戦っている。身体能力に恵まれず挫折した者もいれば、ちょっとした不運で道を踏み外した者もいる。共通するのは、みんなものすごい努力をし、自分の能力をきちんと把握し、先の先まで考え抜いているという点だ。彼らは引退しても、すぐに気持ちを切り替えて、次の目標に進む。

 本の帯に彼らの転身先が書かれているが、公認会計士や会社の経営者、はたまた医学部に進学した者までいる。ふつうに勉強していても、なかなかたどり着けない場所だ。しかしこの本を読むと、さもありなんと納得してしまう。自己管理ができる人たちだから、勉強だろうが、仕事だろうが、決めたことは必ず成し遂げる。思考と行動力が常人の比ではないのだ。

 まだ若い人なら、この本を読んで刺激を受けるだろう。目標を決めて、適切な努力をすれば、達成できる可能性は高い。では、若くない人はどうか。わが身と比べて、落ち込むかもしれない。私はそのクチだった。彼らほどの努力は今更できない。それでも、行動すれば少しは目標に近づけるはず。著者の松永多佳倫は私の頭上に冷水をかけて立ち去っていった。

 (赤星十四三・小説家)


 まつなが・たかりん 1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大卒。主な著書に「善と悪 江夏豊ラストメッセージ」「沖縄を変えた男 栽弘義―高校野球に捧げた生涯」など。