「欲しかったのはあったかい手」個人の尊厳を奪わないケアを 精神科医療の現状を問う 当事者ら那覇でシンポ


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精神科医療の課題や自己決定権について話し合う登壇者たち=1月21日、那覇市古島の教育福祉会館

 国連人権理事会の元特別報告者で精神科医のさんを招いたシンポジウム(主催・同実行委員会、県精神保健福祉会連合会)が1月21日に那覇市の教育福祉会館で開かれた。約150人が来場し、専門家や当事者の話から、精神科医療の現状や課題を学んだ。

 シンポジウムではダニウスさんのほか、解離性障がいのあるなかむらなつみさんや日本弁護士連合会の池原毅和さん、沖縄大学非常勤講師の親川志奈子さんが登壇。宜野湾市地域活動支援センターはぴわんの兼濱克弥さんが司会を務めた。

 各国の精神科医療に詳しいダニウスさんは「日本は強制入院など個人の尊厳を奪うアプローチがあふれている。患者を助けようという意図でやっているかもしれないが、結果として心に深い傷をつける」と強調した。国連が個人の尊厳を奪わないヘルスケアプランを提唱していることを紹介し「精神疾患を理由に、自己決定権を奪われている当事者は多い。当事者の声を丁寧に聞き取る、人権ベースで先進的な治療やケアを増やしていけるかが課題だ」と述べた。

 日弁連の池原さんは「障がいの原因を個人の問題に矮小(わいしょう)化するのは間違いだ。社会の側や人間関係が深く関係しているのに個人を追いやったり隔離したりして解決しようとしている。認識を大転換し、制度を変える必要がある」と強調した。

 解離性障がいで入院し11日間に及ぶ身体拘束を経験した、なかむらさんは手足や腰を拘束されたまま食事や排せつをした時の惨めで孤独な気持ちを自作の漫画を交えて吐露した。「退院後も悪夢が続いた。夢と現実が分からなくなり、家から飛び出そうとして家族に止められたこともある」と話した。

 自分のコントロールができない時、家族に「木に縛り付けてほしい」と願い出たことがあるとも話し「そう言うしかない社会の中で選択肢がなかった。迷惑をかけると分かっているので本心を飲み込んだ。暴れた時に本当に欲しかったのは、固い抑制帯ではなく人のあったかい手や対話だった」と振り返った。

 親川さんは米軍基地が強権的に置かれ、自己決定権を奪われ続けている沖縄の状況と強制入院させられる精神障がい者の状況に「重なりを感じる」と述べ、「苦しみを訴える人たちとつながり、向き合いたい」と話した。

 登壇者やフロアからは「精神疾患は人間の生きるための防衛反応」「当事者一人一人の思いを聞く時間や、マンパワーが医療現場や行政に足りない」などの意見も上がった。
 (赤嶺玲子)