社会を変える「量子技術」、沖縄から発信へ 沖縄科学技術大学院大学に研究拠点


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沖縄科学技術大学院大学(資料写真)

 沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)は昨年10月、従来より規模が大きく複雑な計算ができる量子コンピューターや盗聴が不可能とされる「量子暗号通信」など、将来の社会を変革する技術基盤とされる「量子技術」の研究拠点「量子技術センター」を設置した。センター長を務める物理学者の根本香絵教授は、世界各国から研究者が集まる国際的な環境を生かして、日本のイノベーション拠点となる展望を語った。

 国はOISTも含む国内10カ所の研究機関を「量子技術イノベーション拠点」に位置づけ、新たな産業創出や社会経済活動への実装を目指している。拠点として国際連携の推進役を担うOISTでは、世界各国から招かれた研究者らが理論研究から量子コンピューターの開発など幅広い分野の研究を進めている。

国から「量子技術イノベーション拠点」に追加されたことを踏まえ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に設置された量子技術センターについて説明する根本香絵教授=3日、恩納村のOIST

 根本教授は「量子技術の体系はとても大きく、一国では全分野の研究をできない。各国の強みを持ち寄る必要がある。OISTの国際連携の強みを生かし、新たなアイデアを出す役割を担いたい」と語り、多くの外国人研究者が在籍するOISTの強みを強調する。

 近年、量子技術の研究が世界的に激化している。米国のIBMやグーグル、中国の百度(バイドゥ)が50量子ビット以上のプロセッサーを搭載した量子コンピューターを開発した。さらに量子技術を生かして従来より感度が高い「量子センサー」などの開発も進められているが、いずれも技術的には未熟で実用化には至っていない。

 根本教授は「今の研究で分かっていることが最終的に社会実装まで行く保証はない。今後、新たなゲームチェンジャーが続々出てきて、最終的に勝ち抜いた技術が私たちの社会で使われるようになる」と指摘。「世界で科学技術の中心地となっている場所でさえ、もともとは何もなかった所もある。センターが最先端技術の拠点として機能していくことで、産業や文化、教育でも沖縄に貢献できる」と、量子分野で沖縄がリードできる可能性を語った。
(梅田正覚、知念征尚)

 量子技術 原子や電子、陽子、中性子といったごく小さな物質の世界では、一般的な物理法則とは異なる「量子力学」と呼ばれる物理現象が作用することが分かっている。こうした量子の性質をコンピューターやセンサーなどの分野で活用する。研究開発が進む量子コンピューターでは、従来のスーパーコンピューターでも計算に長い時間を要したようなシミュレーションを、短時間で終えられるようになると期待されている。