きょう那覇で公開講座 遺伝性がんリスク知り決断 「予防摘出」をした看護師の当事者が語る


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「遺伝性がんについて正しく知ってほしい」と話す、那覇西クリニックの看護師・海野利恵さん(右)と玉城研太朗医師=9日午前、那覇市赤嶺の同クリニック

 那覇西クリニック(那覇市赤嶺)の乳がん看護認定看護師・海野(うんの)利恵さん(55)が、18日に那覇市で開かれる市民公開講座に登壇する。卵巣がんの発症リスクがあることから、2021年1月に県内で初めて卵巣・卵管の予防的摘出をした「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」当事者で、自身の経験や思いを語る。

 HBOCの患者は「BRCA1」「BRCA2」遺伝子のどちらかの変異が要因で、乳がんや卵巣がんに罹患(りかん)するリスクが高くなる。「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」などによると、乳がん発症例の5~10%、卵巣がん発症例の15%程度で遺伝子の変異が認められる。男性乳がんや前立腺がん、膵臓(すいぞう)がんの発症リスクもある。

 海野さんは35歳で乳がんのステージ1と発覚し、手術を受けた。自身の経験をきっかけに乳がん看護認定看護師の資格を取得する過程で、遺伝性がんについて知った。その後、母方の親戚が前立腺がんだったことが分かり、母は膵臓がんで亡くなった。「がん遺伝子を持っているかもしれない」と不安が増す一方で、遺伝子検査が20万円と高額だったことから、受検は断念していた。

 20年4月に検査が保険適用になった。「卵巣がんや膵臓がんで命を落とすのが怖い」。不安を払拭(ふっしょく)しようと検査を受けると、陽性。陽性の場合は卵巣・卵管の摘出を決めていたことから、琉球大学病院で手術を受けた。子どもには、2分の1の確率で同じ遺伝子を持っている可能性があることを伝えている。海野さんは「知る権利も知らない権利もある。でも今後の人生設計や健康管理のツールとして、遺伝子を知ることは重要だと思う」と話す。

 那覇西クリニックの玉城研太朗医師は「陽性だった場合、差別を受けたり、妊娠や出産といった将来設計に影響が出たり、保険に入れなかったりする可能性は留意しなければならない」とした。その上で「がんの発症リスクが高い人は早期発見・早期治療につなげられるので、メリットは大きい。がんに限らず遺伝性の疾患はたくさんある。自分の遺伝子について知ることは特別なことではないと知ってほしい」と語った。
 (嶋岡すみれ)

きょう那覇で講座

 海野さんと玉城医師らが登壇する講座は、18日午後2時から午後5時まで県立博物館・美術館で開かれる。入場無料。

遺伝子検査 保険適用も 条件付きで

 「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」の診断を目的とする場合、「BRCA1」「BRCA2」の遺伝子検査は保険適用で受けられるが、次のいずれかの項目にあてはまる場合が対象となる。

 (1)45歳以下で乳がんを発症(2)60歳以下で、ホルモン剤や分子標的治療薬が効きにくい「トリプルネガティブ乳がん」を発症(3)2個以上の原発性乳がん(同時性、異時性は問わない)を発症(4)第3度の近親者内に乳がんまたは卵巣がんの家族歴がある(5)男性乳がんを発症(6)卵巣がん、卵管がん、腹膜がんを発症。

 検査は採血で行われ、3週間ほどで結果が出る。保険診療の自己負担が3割の人の場合、検査費用は6万600円。