<書評>『沖縄 戦火の放送局』 軍隊にのみ込まれた放送


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『沖縄 戦火の放送局』渡辺考著 大月書店・2200円

 社団法人・日本放送協会(いまのNHKの前身)沖縄放送局は、実質的に日本軍が創設し、1942年3月から45年6月までの3年3カ月間、沖縄の地で「放送報国」の大義のもと、軍・官・民の総動員体制下で放送業務を行っていた。本書はその戦時下の沖縄放送局長であった岩崎命吉氏が終戦後に書き残していた痛恨の手記を発掘し、それを縦軸に、沖縄だけでなく南洋諸地域の日本放送協会傘下の放送局において、戦争と放送がいかに緊密に合体したのかの歴史を、精緻かつ綿密な取材によって検証した労作だ。

 本書で著者の渡辺考さんは、〈戦争責任〉について、今を生きる自分たちがどう向きあうべきなのかを、極限に近い真摯(しんし)さをもって問うている。放送はなぜ戦争を止められなかったのか、それどころか、なぜ放送は国民を戦争に駆り立てていったのか、と。渡辺さんと同じく放送という仕事に長年従事してきているわが身を顧みて、この問いかけ自体が、どれほど稀有(けう)であり貴重な作業なのかを痛感させられる。渡辺さんが現在勤務するNHKも含め、取材テーマとして沖縄戦については多くの報道が行われてきている。だが、自分たちの属するメディアが、国民を、とりわけ沖縄の市民たちを戦争へと駆り立てて行った〈戦争責任〉については、なかなか正面から報じられることが少なかった。

 本書では、これまでなかなか報じられたことのない具体的エピソードが紹介されている。例えば、戦争末期、硫黄島や沖縄に対して本土から短波で送られていた「激励放送」の実態などは、戦争の道具になり果てた当時の放送の現実を示す最も無残な例だ。

 読みながら僕は考えた。これらは過去のことか? そうではあるまい。現に僕は、ロシアに侵略され防衛戦争の渦中にあるウクライナで、さらには隣国に侵略戦争を仕かけたロシアで、放送がどのような状況に陥っているのかをみている。そして何よりも今現在、専守防衛をかなぐり捨て、南西諸島を軍事要塞(ようさい)化しようとしている、この国の放送を。

 (金平茂紀・ジャーナリスト)


 わたなべ・こう 1966年東京生まれ、NHK沖縄放送局ディレクター、作家。著書に「プロパガンダ・ラジオ―日米電波戦争 幻の録音テープ」「どこにもないテレビ」など多数。