沖縄空手の世界遺産登録に向けた方策を探る 沖縄・豊見城でシンポジウム


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 沖縄空手のユネスコ無形文化遺産登録に向けた機運醸成を目的としたシンポジウム(沖縄空手ユネスコ登録推進協議会主催)が13日、豊見城市の沖縄空手会館で開催された。斉藤修平氏(文教大生活科学研究所客員研究員)が基調講演したほか、空手関係者や学術関係者らが意見を交わし、ユネスコ登録に向けた方策を探った。 (敬称略)

沖縄空手のユネスコ無形文化遺産登録に向けて話し合うパネリストら=13日、豊見城市の沖縄空手会館

多様性尊重が重要 久保田氏

言葉超え世界中へ 東恩納氏

平和の武 理念発信 嘉手苅氏

 寒川 ユネスコ文化遺産の定義について。

 久保田 無形文化遺産は世界遺産の無形版とよく言われるが全く違う制度。世界遺産は顕著な普遍的価値、世界が認めたものと言えるが、無形は文化の多様性の尊重(が価値基準)で、(登録を求める国などが)これは素晴らしいと言っていることが重要だ。日本では国指定の無形文化財・民俗文化財などから出すとの縛りがある。

 日本の文化財とユネスコの制度を比べるとほぼ正反対と言っていい。文化財制度は歴史上、芸術上の価値がなくてはいけないなどの定義がある。一方で、文化庁でおととしから新登録制度が始まり、その中で生活文化というものが(定義として)位置付けられた。

 寒川 ユネスコ登録についてどう思うか。

 東恩納 言葉や宗教の違いがある中、多くの国で空手を受け入れてくれた。空手は平和につながると分かり、空手家として、ユネスコ登録を目指すべきだと感じた。

 寒川 沖縄空手は生活に根付いていると聞く。

 田名 もともと空手は武士の武術で、限られた世界で伝えられてきた。近代になり、学校教育に取り入れられ沖縄全域に広がり、地域行事にも取り込まれた。

 島袋 沖縄全体で80以上の村棒の型が残っている。武術の棒術の型とは違う。武術の技であれば(習得に)大変な時間もかかると思うが、祭りに備えて青年会が一堂に会して稽古するからさほど難しいこともない。

 寒川 沖縄空手の歴史的、文化的価値や魅力のどのような部分がユネスコ登録されてほしいか。

 嘉手苅 生活の一部であり、沖縄の精神文化が強く結び付いていると。中学校武道の必修化で沖縄では8~9割が空手道を採用している。日本全体では2~4%なので突出した数字で、沖縄空手の伝統がしっかりと受け継がれていることが分かる。自己鍛錬としての沖縄空手の型文化の継承、平和の武の理念が世界に向けて発信されてほしい。

学問的な中心地に 田名氏

指導者の「語り」を 斉藤氏

 

 寒川 県は登録に向け各集落に伝承される棒術などの民俗行事の所作などの調査を進めている。

 斉藤 空手の先生のライフストーリーをもう少ししっかり取ることを提案したい。語りの中から沖縄空手のいろいろな姿が見えてくると思う。

 寒川 登録に向けて今後必要な取り組みは。

 久保田 日本の文化財制度とユネスコの考え方が相反する部分が悩みの種かと思う。新たに現れた生活文化というジャンルの対象が何かは分からないが、県内に武術的な身体動作を含めた民俗芸能、祭礼がたくさんあることは強みになると思う。一方でユネスコが一番重要視しているのは多様性なので、それをいろんなネットワークの中でどう位置付けるかを考えていくという多方面作戦が必要になるだろう。

 田名 世界中から沖縄に空手を学びに来ているが、学問的な意味で学べる中心地と言えるようになってほしい。登録後の空手の将来を考える時にも重要になると思う。

 島袋 地域の文化を、県で何らかの指定ができないか。その地域は非常に誇りを持ち、活動も活性化され、継承にもつながると考える。

 嘉手苅 沖縄空手は日本の武道の影響を受けてはきたが、違う部分を色濃く持っている。民俗調査するに当たっては沖縄空手の変遷の理由や担い手の考え方、中核となる型や技法の解釈がどのような実情なのかに依拠することが重要だ。そこでは空手指導者、実践者の視点が必要だと考える。

 寒川 県は、世界中にいるウチナーンチュとの連携も視野に入れているようだ。沖縄空手の文化的意味をアカデミックに積み上げて文化庁に申請しようと動いている。

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田名真之氏(県立博物館・美術館館長)

久保田裕道氏(東京文化財研究所無形文化遺産部無形民俗文化財研究室長)

東恩納盛男氏(沖縄県指定無形文化財「空手・古武術」保持者/沖縄の空手・古武術保存会副会長/伝統沖縄剛柔流空手道連盟主席範士)

斉藤修平氏(文教大生活科学研究所客員研究員)

島袋常雄氏(県古武道連盟会長/上地流空手道守礼会・琉球古武道翔成会南風守礼館館長)

嘉手苅徹氏(沖縄空手研究所所長/沖縄大客員教授)

コーディネーター
寒川恒夫氏(早稲田大名誉教授)

 


<基調講演>地元の考え一番に 斉藤修平氏

 

 認定後にどうするかという整理も同時に出発した方が良い。沖縄空手という文化に投資を惜しまないという態度がないと、認定されたところで物語が終わる。

 認定に向けてはその対象範囲をどこかで決めないといけない。同じ文化だが排除しないといけない場合も出てくる。沖縄空手もどの範囲でくくるかという問題が出てくる。

 文化を区切ってシャープに進めていくと同時に、曖昧性を用意した整理をしないといけない。曖昧なところを大事にしないと伸びしろがなくなる。地元の考えや知識、認識を一番にしようということだ。権威的な考え方もあるが認定に向けて地元の考えをとにかく取り込むことだ。

 現状がそのまま未来像になることはない。社会の受け入れ態度も変わる。厳格性だけで論じると動きが取れなくなる。

 指定・認定に向けては、全国民に理解してもらえる説明モデルが全てだが、そこでは持続可能性や少し意見が違っていても共に進むことを考え、その意義を言語化することが重要だ。

 価値をとにかく考えていこう。こんな価値もあるのではと作り出していく。自分たちで価値を考えたら、それに即した調査項目をつくるのが大事かと思う。