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沖縄の50年、法廷で見つめ 米兵少女乱暴事件も担当した法廷通訳人・金城初美さん 耐えがたい内容も「冷静、正確に」


この記事を書いた人 Avatar photo 前森 智香子
薬剤師の傍ら、50年にわたり法廷通訳人を務める金城初美さん=2月22日、浦添市内(喜瀬守昭撮影)

 米軍関係者による事件事故が多い沖縄で、本土復帰直後から日本語が分からない被告と裁判官らの橋渡し役を担っている。金城初美さん(75)=浦添市=は、薬剤師の傍ら、裁判で外国人の被告の通訳をする「法廷通訳人」として活躍してきた。今年で登録50年。米兵による少女乱暴事件や、米軍属による女性殺害事件なども担当した。「責任は重いが、私にとって天職。社会貢献のつもりでやってきた」と振り返った。

 中学から英語が好きで、普天間高校時代は英会話クラブに所属した。級友に誘われ、公費での米国留学制度の試験を受けて合格。

 「せっかくなら英語で資格を取ろう」と、薬学部に進んだ。難解な専門用語に苦しめられたが、米国人の友人の助けもあり、必死で授業に付いていった。

 1971年、ワシントン大学で薬学の学士号を取得した。帰国後は薬剤師の資格と英語力を生かし、米国人スタッフや患者が多いアドベンチストメディカルセンターに就職。父の友人から法廷通訳人を勧められ、裁判所の面接を受けるなどし、復帰翌年の73年に登録した。

 当初は性犯罪は男性の通訳人が担い、自身は薬物事件などが多かったが、次第にあらゆる事件を担当した。病院を退職して薬局を開業した80年以降は、通訳や翻訳の仕事を次々と受けた。法廷での通訳だけでなく、警察の取り調べや少年事件の調査官調査の通訳も担った。

 被告の人生を左右する公判の通訳は「とても緊張感がある。冷静に、正確に」と心掛ける。最もつらかったのは、95年に発生した少女乱暴事件の米兵3人の通訳だ。法廷で被告から出た言葉は、被害少女に対する理解に欠けていると感じた。「あり得ない」。声を上げたくなるような憤りの後、悲しみに襲われた。一呼吸置いて、日本語に訳した。

 2016年に起きた米軍属による女性殺害事件も「耐えがたい内容」だった。「私的な感情で訳が変わったことは絶対にない」としつつ、「感情移入しないようにするが、被害者が女性の場合、同じ女性としてつらいと感じることはこれまでたくさんあった」

 語学だけでなく、法的知識も求められる。金城さんの場合はさらに薬剤師としての専門知識も持ち、法曹関係者からの信頼が厚い。ただ、09年の裁判員裁判導入後、対象事件の場合は法廷外での事前準備に時間を要し、負担は重くなったと感じる。

 「家族の理解があり、ここまでできた」という50年。「仕事はやりきった」という気持ちだが、裁判所からの依頼はなるべく受けるようにしている。「法廷通訳の仕事は、もう少し続くかな」とほほ笑んだ。
 (前森智香子)

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<用語>法廷通訳人

 日本語が分からない外国人が被告となる刑事裁判などで通訳を務める。公的な資格はなく、各地の裁判所が面接を行い適性がある場合に「通訳人候補者名簿」に登録する。最高裁によると2021年4月時点で、名簿には全国で61言語、約3500人が登録されている。裁判所の職員ではなく、選任されると報酬が支給される。国際化や裁判員制度の影響で重要性が増し、負担が増える一方で、待遇が見合わないとの指摘もある。