<書評>『沖縄の岸辺へ 五十年の感情史』 東京からこそ見える構造


社会
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『沖縄の岸辺へ 五十年の感情史』菊地史彦著 作品社・3080円

 「感情史」とは何だろうと思い、新しい知見を探しながら読んだ。社会学的なアプローチという意味で、すでに出された論考や出版物などの分析により著者の考えを述べるというスタイルだからかもしれない。過去の出版物の引用や要約が多いため、既視感があった。感情はナマモノだ。直接聞いたことを「感情史」と題してまとめることは難しい。文字化された感情は情報となり、分析の対象たり得るということか。

 第四部の「五十年後の光景へ」は、一部うなずきながら読んだ。さすがコンサルタントである。第十一章「アメリカンビレッジの行方」では北谷と読谷の基地跡地利用の事例を引き、その構想の違いについて述べている。その一節「里浜と人工ビーチ」ではキャンプキンザーの返還と西海岸道路、そしてカーミージーについて触れ、当初の計画よりも埋め立て面積を減らす方向に修正されたことを評価している。惜しむらくは、パルコシティ前のエリアについて触れていないことだ。まだ生きている埋め立て計画に反対する市民の声は、東京では聞こえにくいのかもしれない。それに対し、第十三章「沖縄のリアリティ」は、逆に東京にいるからこそ見える「沖縄ヘイト」の構造について述べている。しばしばヘイトとセットで語られる「沖縄振興予算をもらっているくせに」という論調に対しても、沖縄振興予算は国庫支出金をまとめたもので、仕組みが他県と違うだけときちんと述べ、さらに「この五十年、国は沖縄を“予算漬け”にし、結果的に『自立』のマインドを削り取ってきたように見えるのだ」と踏み込んだ発言をしている。

 復帰50年で沖縄が注目された昨年、「遠くから安易に沖縄を語られること」でおなかがいっぱいになり、「見たい沖縄」だけを見て帰る人の多さに、私は食傷気味ですらある。著者が見せる問題意識は、むしろ県外の人にこそ知ってほしい。デジタル版で本紙を読む沖縄リピーターの皆さん、ぜひ身の回りの方にご推奨ください。

 (いのうえちず・沖縄県産雑誌『モモト』編集長)


 きくち・ふみひこ 1952年東京都生まれ、ケイズワーク代表取締役、東京経済大非常勤講師。著書に「『幸せ』の戦後史」「『象徴』のいる国で」など。