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米帝国の収縮 「台湾有事」は日本への重圧<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 中東で大きな外交的変化があった。6~10日、中国の首都北京でイランとサウジアラビアの代表者が協議した結果、2016年に外交関係を断絶したサウジアラビアとイランが関係正常化について合意した。

 10日のイラン外務省の声明では<今回の合意成立において中国が示したイニシアチブや交渉の場の提供、また、これまでにサウジとの交渉において友好国イラクやオマーンが果たしたという効果的役割に感謝したい>(12日「Pars Today」日本語版)との言及がある。中国が中東で本格的な仲介外交を行ったのは筆者が知る限り、これが初めてだ。中東における米国の影響力は明らかに低下している。

 他方、ウクライナ戦争で日本やドイツに対する米国の締め付けが強化されている。米国の影響力については、ヨーロッパや日本には強まっているが、中東では弱まっている。この状況を合理的に説明しているのがフランスの人口学者で歴史学者のエマニュエル・トッド氏だ。トッド氏はフランスの新聞「フィガロ」(1月12日付)のインタビューでこんな見方を示している。

 <米国の弱体化という現象は世界各地で見られますが、ヨーロッパと日本は例外です。「帝国システムの収縮」の結果としていま起きているのは、米国が「第一の保護領」に対しては、むしろ支配を強めていることです。/ズビグネフ・プレジンスキー〔『地政学で世界を読む―21世紀のユーラシア覇権ゲーム』〕を読むと、「アメリカ帝国」は、第二次大戦末期に、ドイツと日本を占領したことによって築かれたことが分かります。両国はいまも米国の「保護領」であり続けています。「アメリカ帝国のシステム」が収縮すればするほど、その重圧は「保護領」(私はここにドイツだけでなくヨーロッパ全体を含めます)のローカルエリートに集中的にのしかかることになります>(エマニュエル・トッド/片山杜秀/佐藤優「トッド人類史入門 西洋の没落」文春新書、2023年、193頁)。

 トッド氏の見方を沖縄との関係に敷衍(ふえん)してみよう。ウクライナ戦争が始まってから、直接関係のない台湾有事について、あたかも直前にある危機のように日本の政治家もマスメディアも騒ぎ立てるようになった。これも突き放して見れば、「アメリカ帝国のシステム」がアジアにおいて収縮していることに伴って起きている日本の政治エリートとメディア・エリートに対する重圧を反映しているに過ぎない。ここで重要なのは、沖縄はあくまでも沖縄と沖縄人の利益を追求することだと思う。県にとって重要なのは、沖縄を取り巻く情勢について、自らの手足で情報を収集し、自らの頭で考えることだ。

 沖縄の置かれている状況について県幹部がトッド氏から直接話を聞いてみることを勧めたい。あるいは沖縄のマスメディアがトッド氏から人口学的、人類学的見地に基づく沖縄に関する現状分析について話を聞いて、読者、視聴者に伝えることも有益と思う。

(作家・元外務省主任分析官)