<書評>『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』 軍隊による構造的性暴力


社会
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『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』洪伸著 インパクト出版会・4180円

 いまや日韓の外交問題に収斂(しゅうれん)され、歴史修正主義者や中央メディアによって“埋没”させられた日本軍「慰安婦」問題。そんな中でも、沖縄県内では、日本軍と密接な関係にあった「慰安所」の記憶を通して、市町村史に証言が記録され続けている。しかし、住民の生死を分けた体験の重さゆえか「風景」として描かれた感は否めない。

 それは、本書を読んだことで生じた所感だが、海軍の航空基地建設で始まる1941(昭和16)年の南大東島を皮切りに、その後第32軍によるものも合わせて明らかになった延べ130カ所(現段階では146カ所)に設置された「慰安所」を網羅するかたちで、著者自身が地域に入り込んで得た証言や記録、膨大な資料を分析し、戦時下の「慰安婦」を取りまく軍隊と住民生活の実態を立体的に浮き彫りにしているからだろう。

 軍民が混在する日常空間に置かれた沖縄の「慰安所」について、著者が「『加害』と『被害』が重なる戦場で、住民の間に『死の政治』が潜んでいたことをより鮮明に見せる空間であり」、「『戦時性暴力』の制度化されたシステム」だと位置づけるように、「敵に捕まると強姦(ごうかん)される」という恐怖心の見せしめとして、「慰安婦」の存在が「集団自決」への誘因とされたことは、これまで多くの女性たちが証言してきたことである。著者はそれだけにとどまらず、その背景としての歴史叙述や「慰安所」設置のプロセス、軍主導の生活下における住民と「慰安婦」との“距離感”、そして米軍上陸後の戦場の体験に克明に言及することで、軍隊による構造的な性暴力について論述している。

 大東諸島を舞台にした「資本と『慰安所』」、「沖縄戦・村に入った慰安所」、「米軍上陸の『有った』島/『無かった』島における『慰安所』」の3部と「韓国における『沖縄学』の系譜」で構成される本書は研究書として編まれたが、平易な文章でつづられているうえ、一級資料や地図、写真がふんだんに織り込まれて内容的な価値を高めており、改めて歴史研究に携わる一人として、著者に敬意を表するものである。

(宮城晴美・沖縄女性史家)


 ほん・ゆんしん 1978年韓国生まれ、青山学院大などで非常勤講師。共著に「戦後・暴力・ジェンダーI―戦後思想のポリティクス」「現代沖縄の歴史経験」など。