仮想空間で琉球古武道が学べる AIで技をデータ化し比較 eスポーツとの連携も模索 琉大×流成曾×okicomが共同開発


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練習生の動画データをアバターに転換し技の点数を確認できるなど、アバター育成プログラムの開発も目指している(提供)

 琉球大学と実戦沖縄武道連盟琉成會、okicomの3者は共同で、琉球古武道をオンラインやインターネット上の仮想空間「メタバース」で楽しみながら学ぶサービスの開発を進めている。海外からも琉球古武道の技術指導を求める声が寄せられてきたが、空手に比べ指導者の数が少なく、コロナ禍で指導の機会が制限されてきた。人工知能(AI)による動画自動解析技術を応用し、古武道の技をデジタルデータ化し評価基準を作るほか、練習生が“サイバー道場”内で自分のアバターを育成するウェブアプリを構築するなど、場所を問わず琉球古武道を学べる環境を整えたい考えだ。

 研究開発を進めるのは、琉球大研究企画室客員教授の中嶋昇さん、実戦沖縄武道連盟琉成會会長の與儀清斗さん、okicomの岡本悠一さん、同大工学部助教の宮田龍太さん、理工学研究科博士後期課程2年次の北島栄司さん。県による2022年度の琉球歴史文化コンテンツ創出支援事業の補助金を活用した。

 琉球古武道は、琉球王国時代の武士階級が、日常の生活民具を武器化し受け継がれた武術のこと。中嶋さんは「琉球王国時代の生活様式や思想を今に残す貴重な文化資源だ」と指摘する。世界には約1億3千万人の空手家がいるとされており、ヌンチャクやトンファー、サイ、棒など武器術の指導を希望する人は多いという。

 実際に、琉成會の元には指導を求める声が届いている。一方、新型コロナウイルスの影響もあり、近年は海外在住者に対する指導は困難だった。與儀さんは「特に海外では熟練した古武道の先生が少ない。『海外に来てほしい』『習いに行きたい』という多くの要望が寄せられた。オンラインで指導し、広く普及させたいという考えもあった」と経緯を語る。

 昨年12月には、県内外や海外の琉球古武道愛好家の交流を深めることを目的に、「第2回ワールド琉球古武道チャンピオンシップ」を沖縄空手会館とオンラインでハイブリッド開催した。ウクライナを含め、多くの国からオンライン参加があり、海外愛好家からの関心の高さを感じる機会となった。

仮想空間で琉球古武道を学べるサービス構築を目指す琉球大学や琉成會、okicomの関係者ら=2月、西原町の同大

 「どこでも、誰もが、いつでも効果的な指導が受けられ、古武道を楽しめる環境作りができないか」―。そこで、琉球大学工学部の宮田助教の研究室が開発する「運動の軌道をAIにより自動解析し3Dで可視化する技術」を応用し、師範による琉球古武道の技や型をデジタルデータとして可視化する研究開発を開始した。

 事業では、師範による模範演技を動画で解析し、「動き」「パワー」「スピード」「姿勢」「技の正確性」など評価基準を設け、練習生が師範と自分の技と比較分析できるようにする。さらに、練習生の動画データを3Dモデル化し、アバターとして転換。師範の技を基にした評価基準で、練習生の技を採点しレーダーチャート上で表示する仕組みを作る。自分の技術が向上すると、ウェブアプリ内のアバターも成長していく機能を備えたプログラムを構築し、練習生がモチベーションを高めながらゲーム感覚で楽しめるよう工夫する。

 本年度は、師範による棒の「打ち込み」「中段突き」「下段払い」「下段突き」「顎(あご)打ち」の五つの技を動画で解析した。実際の活用を見据えて、来年度からは国内外にいる琉成會の道場生を対象にした運用や、「ワールド琉球古武道チャンピオンシップ」などのオンライン競技の判定で試験的に取り入れたい考えだ。

 一方、琉球古武道の型は、複数の技が連続して組み合わさったもので、今後は型全体の評価ができるよう解析性能を向上させる必要がある。eスポーツやスポーツメーカーなどとの連携を模索しながら、将来的には商品化を目指している。

 與儀さんは「解析する技を増やして型につなげていきたい。古武道の普及のため、対面での個別指導でカバーしながら、練習生とのつながりも大切にしたい」と語った。中嶋さんは「メタバースが一つのキラーコンテンツになるのではないかと思っている」と話す。県内にいる琉球古武道の指導者の技をデータとして記録し継承でき「意義がある重要な資料になる」と事業の可能性に期待を込めた。
 (吉田早希)