首相のウクライナ訪問 ロシアとの意思疎通も重要<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 3月21日、岸田文雄首相がウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。この訪問に対するロシア側の反応は非常に抑制されたものだった。3月23日の定例記者会見でロシア外務省のザハロワ報道官はこう述べた。

 <質問:習近平氏のロシア訪問と並行して、日本の岸田文雄首相がキーウを訪問しました。日本のこの行動をどう評価しますか。

 回答:G7の枠組みで、日本がキーウ訪問の計画を実行する必要があったのでしょう。ワシントンの論理に従って行動し、その圧力の下で行動するすべての人々は、自らが行った訪問について報告しなければならない日程表があるのです。ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席の訪問と会談から焦点をずらすためだったのかもしれませんが、両者を比較することは出来ません。

 日本の立場やキエフ政権の状態は、すべて理解可能なので、私たちが心配することはほとんどありません>(3月23日、ロシア外務省HP、ロシア語から筆者訳)。

 ロシアの対応が抑制的だった理由は二つある。まず、この訪問が不意打ちではなく、クレムリン(ロシア大統領府)に事前通報していたからだ。<日本政府が岸田文雄首相のウクライナ訪問をロシアに事前通告していたことが22日、分かった>(3月22日「日本経済新聞」電子版)という報道は事実であると筆者も複数の確実な筋から確認している。

 ロシアが最も懸念しているのは、日本がウクライナに武器供与をすることだが、殺傷能力を持たない装備品を40億円分供与するにとどまった。自衛隊が購入する戦闘機F35の値段が1機約150億円、高速道路の建設費が1キロメートル当たり約50億円であることと比較すれば、40億円は微々たる額だ。高速道路800メートル分のカネしか出さないというのは日本の国力と比較して小さすぎる。ロシアは岸田首相の激しいロシア非難の言葉よりも、日本の実際の行動を見て、今回は抑制的な対応をすると決めたのだ。

 岸田氏のウクライナ訪問に対するロシアの反応で、筆者が気になるのはプーチン大統領やラブロフ外相が全く反応していないことだ。プーチン氏もラブロフ氏も岸田政権の外交政策は米国に従属しているので、現在の日本政府と交渉しても意味がないと考えているのだろう。

 日本とロシアは隣国だ。マンションならば隣に相性の合わない人がいれば、引っ越すことができる。国家の場合は引っ越しができない。いかなる状況下においても首相官邸がクレムリン(ロシア大統領府)と直接対話できるチャネルを維持することが重要になる。政府間だけでは十分な意思疎通ができないことが明白なので、民間でもロシアとの交流は重要になる。

 沖縄の経済人、マスメディア関係者でロシアと交流した経験を持つ人も少なからずいると思う。日本が戦争に巻き込まれないようにするためにも沖縄とロシアの民間交流が重要になる。特に沖縄のメディアが、日本のメディア経由でなく、ロシアに関する生情報を取り分析することが、沖縄独自の外交政策を策定する上で重要になると思う。

(作家・元外務省主任分析官)