琉球新報社 女性の健康や暴力の問題などについて考える市民公開講座「自分らしく生きる。からだ・ココロ・性」（沖縄産科婦人科学会、おきなわ女性財団、大塚製薬共催）が3月19日、オンラインで開かれ、約200人が視聴した。第1部では女性の健康と女性ホルモンについて、第2部では「沖縄県における女性と暴力の問題を考える～被害者支援と加害者プログラムについて～」をテーマにした講演があった。第2部は和光大学講師の打越正行氏と原宿カウンセリングセンター顧問の信田（のぶた）さよ子氏が登壇し、それぞれの立場から、暴力が振るわれる背景や加害者プログラムの必要性などについて話した。ディスカッションは琉球大教育学研究科教授の上間陽子氏がファシリテーターを務めた。第2部の講演の内容を詳報する。 （嶋岡すみれ）
沖縄社会における男性性 暴力は上下関係示す手段
建設現場などで、地元の先輩男性から後輩男性へ振るわれる、物理的な暴力の理解を試みたい。理解するということは、正当化するということではない。ただ15年ほど彼らと付き合う中で、普通に冗談を言ったり世間話をしたりしていた人が、後輩に手を出すことがある。沖縄の建設業の人間関係の中で、彼らなりに動機や意味づけがなされて暴力が振るわれているのかなと思うようになった。
沖縄と全国の総生産の産業別割合を見ると、沖縄の製造業は全国の4分の1しかない。一方で建設業は全国平均5・1％に対し、沖縄は8・8％を占める。
製造業は自分たちで物を作って売る。マニュアルに基づいて働けばよく、先輩後輩は関係ない。マニュアルや課程がある働き方は、学校と非常に親和的だ。
一方で、建設業は仕事を受注して初めて仕事が始まる。つまり、仕事があるかどうかを自分では決められない。仕事がある時に頭数を集められることが建設業で生きていくために一番大切で、後輩を引き連れて働くことが、仕事、稼ぐことに直結している。後輩にとっては、先輩の支配下に入ることが先輩たちの暴力を回避し、仕事に必要な技術を身につけ、地元での地位を安定させる上でプラスになる。
誰かに仕事をもらって初めて成り立つ建設業では、一人一人の従業員がちゃんと育っているかどうかは後回しで、給与や職位、技術が頭打ちになる。ステップアップが難しい。その中で、上下関係を確認し、維持するための手段として、後輩に厳しい指導、暴力を振るうということが、状況によって生じうる。
これが全ての理由ではないが、彼らの間で振るわれる暴力について理解しようとするときの一つの視点にはなると思う。
（打越正行氏、和光大学講師）
DVの加害者プログラム 「反省」でなく「責任」として
日本のドメスティックバイオレンス（DV）防止法は予防と被害者保護だけして、加害者の逮捕は原則不可能だ。カナダ、アメリカ、韓国では、DVは犯罪。日本は公的な加害者プログラムは実施されていないが、諸外国では加害者は逮捕され、裁判所命令で加害者プログラムに参加する。DVはほとんどが男性による犯罪。性犯罪と同様に、日本はほぼ男性による犯罪には法改正が及び腰だ。
加害者である父親は責任を取らなくてもペナルティーはなく、自分がやったことはDVだという自覚がない。そしてそれが子どもたちのはるか先の人生に影響するという知識もないまま暮らし続けられるのが、日本のDVだ。
加害者プログラムは正義のためにやるのではない。被害者支援の一環としてやる。やらないとDVを受けている女性が困るからやる。母親が困ったら子どもはもっと困る。
加害者は変わらないのかと言うと、変わると思っている。性根とか人間性を改めるとかではなくて、少なくとも今までやっていた暴力をやらなくなることは可能だと思う。
加害者プログラムの大原則として、行為は否定するけど人格は否定しない。人としてどうなのか、ということではなく「あなたの行為、言動は問題なので、それは変えていきましょう」と言う。そして加害者に「反省」ではなく「責任」という言葉を使う。「責任が取れるだけの人間であると私はあなたを信じている」と伝える。
今後の加害者プログラムの発展のためには、（1）被害者支援の一環という原点を忘れない（2）被害者支援との連携（3）困難例、失敗例の検討を重ねる（4）日本の行政施策が遅々として進まない中でDV加害者プログラムを実践することの困難さを自覚する（5）とにかく続ける―が大切だ。
（信田さよ子氏、原宿カウンセリングセンター顧問）
講座は動画配信サイト「ユーチューブ」で配信されている。4月30日まで視聴することができる。視聴はhttps://www.youtube.com/watch?v=Zurgd5Mhfs4から。
